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2012-11-06 00:00
(連載)今こそ和平演変戦略で中国の民主化を(2)
加藤 朗
桜美林大学教授
現在の中国の最大の弱点は、国家のアイデンティティが失われたことである。だからこそ文化を通じた和平演変戦略が有効なのだ。毛沢東時代には、その評価はさておき、明確なナショナル・アイデンティティとしての共産主義、正確には毛沢東主義があった。毛沢東主義も共産主義も弊履のごとくかなぐり捨てた今の中国に一体何が残ったのだろう。欲望にまみれた拝金主義と官僚腐敗の蔓延する単なる独裁体制だけが残ったのではないか。国連での「盗み取った」発言、IMF総会への欠席など、経済力と軍事力さえあれば世界は自分たちの思うとおりになるとの現政権の振る舞いは、中国の長い歴史や伝統、文化を損ない、経済力と軍事力以外に国家のアイデンティティを見いだせない現政権の弱点を露呈させてしまった。
眠れる獅子、死せる鯨と呼ばれた中国は、かつてイギリスがそう呼ばれたように、今や「世界の工場」と言われるまでになった、労働者の低賃金と消費市場の巨大さを狙って世界中の工場、会社が進出している。それは、考えてみれば、中国人労働者が低賃金で働かされ、中国の赤い資本家も含めて世界中の資本家から搾取されているのに等しい。百円ショップやユニクロに行ってメード・イン・チャイナの製品を見ると、いったいいくらの労賃が払われたのだろうと思い胸が痛む。
見方によっては今の中国は、約100年前に日本も含め欧米列強の食い物になった清朝末期の「死せる鯨」の時代のようだ。当時、国民の貧富の格差は開くばかりか絶対的貧困に多くの農民はあえいでいた。官僚は腐敗し、労働者は買弁資本家や外国資本には搾取される。そして三一運動や五四運動のような反日民族運動が激化し日貨排斥運動が起きたことまで現在の反日暴動とそっくりである。ならば徹底的に中国政府の反日政策を利用してはどうか。中国民衆の反日運動は、過去そうであったように体制転覆の引き金となる。
かつては五四運動を契機に中国国民党や中国共産党が基盤を固め、軍閥を打倒していった。中国共産党は誕生間もない頃の反日ナショナリズムの手法を持ち出して権力を固めようとしている。しかし現代の中国共産党は毛沢東主義も共産主義もかなぐり捨て、金と力だけを武器に民衆を支配しようとした昔の軍閥と変わらない。現代の反日暴動の矛先は必ずや現代の軍閥、中国共産党に向けられるだろう。そして100年前の中国国民が夢見た自由と民主主義の国家が誕生するだろう。中国国民を解放するためにも、日本の対中戦略は文化を通じて中国の民主化を支援する和平演変戦略をとるべきなのである。(おわり)
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