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2012-10-17 00:00
事実上崩壊した橋本のカリスマ
杉浦 正章
政治評論家
奈良県久米寺の空飛ぶ仙人が女性の白いふくらはぎに見とれて、神通力を失って墜落した伝説は有名だが、大阪の久米仙人も若いのに墜落の危機だ。単にコスプレ不倫だけでなく、現実政治に直面するにつれて、そのメッキの剥げ方が著しいのだ。支持率の低下を招いている。日本維新の会代表の橋下徹はカリスマが崩壊したのだ。カリスマとは特定の人物の非日常的な能力に対する“信仰”だが、その非日常的な能力が繰り返せなくなると、すぐに色あせる。マックス・ウェーバーによるとカリスマの崩壊は追随集団の急速な崩壊を招くと言うが、その兆候も見え始めた。歴史的には橋下ブームは「大阪ポピュリズム」の浅薄さの証明となるものだろう。何しろ民放のコメンテーターらは連日「天才だ」「天才だ」と賞賛、新聞もその一挙手一投足を報じた。コメンテーターや大阪の記者の政治意識のレベルがいかに低いかを物語る傾向として、興味深いものがあった。だいたい最近の「天才政治家」は米国ではケネディ、イギリスではチャーチル、中国では毛沢東、日本では田中角栄くらいしかいないと思っているから、ばかばかしくて聞いていられないのだ。政治評論家も礼賛し続けたが、政治を判断する基本が出来ていない。
最近では橋下本人も、カリスマ崩壊を認めている。「だんだん虚像じゃなくなってきて、実像に近づいてきた。まだまだ下がる」と、他人事のようなコメントをしている。なぜ崩壊したのかと言えば、もともと“虚像”であったからだろう。カリスマとは、一度や二度空を飛んだくらいでは維持できない。ずっと飛び続けないと、崩壊するのだ。まず崩壊のきっかけとなったのは、その国政に対する認識の甘さだ。発言も極端に変わる。超重要テーマでも、消費税反対が賛成、原発再稼働反対が賛成と言った具合だ。極めつけが、国中が怒っている竹島問題で「日韓共同管理」を提唱したのだ。あまりの無知、無節操ぶりに、これでは中学校の模擬国会の方がよほど立派だ、と思われ始めたに違いない。まだまだ“久米仙人”の露呈はある。政党化するため松野頼久ら国会議員を取り込んだまではよかったが、石原慎太郎から「そうそうたるメンバーが集まったのならともかく、あの顔ぶれでは、周りも失望するんじゃないか。橋下君自身が失望してるのじゃないのかね」とあきれられる始末。
たしかにあの顔ぶれはひどい。ほとんど見たこともない連中だが、後ろめたいのか、皆お通夜の客みたいに暗い。大々的にPRするはずだった9月の橋下による“面接”も、低調そのものに終わり、逆効果となった。かってはホテルの会場に溢れんばかりに集まった「維新の会」の政治塾も、人が集まらず、「風」がやみつつあることを如実に物語っている。一番信頼性のある時事の世論調査によると、政党支持率は自民党が16.8%なのに対して、日本維新の会は1.2%だった。この傾向にどう対処するかだが、カニではないが、甲羅に合わせた穴を掘り始めた。比例区と合わせて全国に400人も立候補させると豪語してきた路線を急転換させ、既成政党との連携へと動いたのだ。みんなの党との関係も、8月には橋下が渡辺喜美に「解党して、合流してほしい」とねじ込み、さすがに渡辺も怒って、決裂した。ところが、国会議員7人の顔ぶれと能力を見て、橋下はようやく、これでは国会に出ても潰されると気付いたに違いない。このメンバーでは国会対策など出来るわけがない。もう既成の政党と連携して、利用するしかないと思ったのだ。
ブレーンの元総務相・竹中平蔵の勧めもあって、みんなの党とよりを戻したがっているのが現状だ。橋下は「両党が二つのグループのまま選挙を迎えるのは、国のためにならない」と大仰な発言をしたが、まずポピュリズムそのものが国のためにならないことを知るべきだ。恐らく総選挙でも、選挙区のすみ分けをすることになるだろう。維新人気など元々ない関東、東北、北海道はみんなの党が力を入れており、同党の候補者の7割を占める。東はみんな、西は維新という流れにしようと言うことだろう。日中関係をめちゃくちゃにした天下の大老害・石原慎太郎も、維新を利用しようとしているが、老害と落ち目の三度笠では、いずれにしても大したことにはなるまい。筆者が繰り返し警告しているように、元首相・麻生太郎も警告を発した。「おれおれ詐欺に引っ掛かる人は、大概2回引っ掛かる。前回民主党の『やるやる詐欺』に引っ掛かった人がいると思うが、今回大阪から似たような手口が出てきている。2回引っ掛かったらあほうだ」と発言したのだ。ポピュリズムに2度にわたって政治を蹂躙(じゅうりん)させるようでは、有権者も度し難いあほうだ。
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