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2012-10-16 00:00
(連載)尖閣問題はキッシンジャー外交の負の遺産(2)
加藤 朗
桜美林大学教授
他方、政治的視点に立つとき、尖閣問題は日中間の領土紛争ではなく、米中間の覇権闘争の一コマでしかない。というのも尖閣問題はアメリカにとって対中外交の一環でしかないからである。尖閣問題に対する米国の態度は、われわれにはあいまいどころか奇異にさえ映る。なぜなら施政権と領有権を分離しているからである。尖閣に対する施政権は日本にあり、施政権を中国が侵犯する場合には日米安全保障条約が発動されるが、領有権については中立との立場をとっている。
このことは、領有権の奪還を目的に掲げて中国が尖閣を武力攻撃した場合には日米安保は発動されないと言っているようなものだ。領海警備はともかく現在日本政府が具体的に尖閣諸島に施政権を行使していない状況では、尖閣問題は領有権問題でしかないと米国は強弁し、日米安保を発動せずにおくことは可能だ。そもそも施政権と領有権を切り離した背景には、1972年の沖縄返還当時の米中ソの権力闘争があった。当時大統領補佐官であったキッシンジャーは米中国交回復によってソ連を封じ込めようとした。そのため尖閣問題で中国の不興を買わないように領有権問題を棚上げしたのだ。尖閣問題は、その意味で、キッシンジャー外交の負の遺産である。
キッシンジャーは国益を第一にイデオロギーを排して、敵の敵は味方という、権力政治を展開した。中国も、三国志の昔から、権謀術数の国である。ともに権力政治を信奉する毛沢東とキッシンジャーは互いにイデオロギーを超えて肝胆相照らす仲となったことだろう。キッシンジャーの思惑通り、ソ連は封じ込められ崩壊した。一方中国はキッシンジャーが懸念していた国際秩序破壊の革命国家ではなく、共産主義のイデオロギーを捨て、国内外に対してむき出しの軍事力を誇示する共産党独裁国家となった。もし、米国が今もなおキッシンジャー流の勢力均衡概念に基づいて対中関係を考えているのなら、尖閣問題は対中戦略の問題でしかない。
キッシンジャー外交はソ連という米国にとって敵を倒すために中国という本来は共産主義国家で独裁体制である敵と一時的に手を組んだだけのはずだ。ソ連を倒した後、次は中国の共産党独裁体制を倒し民主化するのが米国の大義ではなかったのか。だとすれば民主主義国家の日本と手を組んで中国の独裁体制打倒は当然であろう。人権を抑圧する中国政府の民主化こそ世界の平和と安定に不可欠であろう。尖閣問題であれ何であれ対中国に対しては日本との同盟を強固にするのが当然である。今こそ米国はキッシンジャー外交の負の遺産を捨て、中国の民主化を進める外交をとるべきだ。日本は米国とともに中国の民主化を進めるべきである。そして領土問題は、中国共産党ではなく中国民主政府との交渉にゆだねるべきである。(おわり)
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