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2012-09-19 00:00
反日暴動は、日中関係にとって根本的出来事ではない
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
中国では、日本による尖閣国有化を名目に反日デモが発生し各地に飛び火するとともに、暴徒化している様相がしきりに報道されている。これは、ゆゆしき事態であり、邦人の安全確保を中国政府に強く要求するのは当然である。また、意に染まない事態に対してはこうした極端な行動が起こる可能性がある、という「チャイナ・リスク」を国際社会に広く訴える必要もあろう。外資が逃避すれば中国経済は急失速するので、経済成長を唯一の正統性とする共産党政権への、ささやかな牽制にはなるかもしれない。
今回の反日デモ・反日暴動も、やはり大きく見れば「官製デモ」の部類に属すると言ってよい。中国当局がこうした反日暴動を許している理由は、もちろん日本への圧力という意図が大きいのだろうが、今直ちに日本と全面衝突に至るようなことは望んでいないと考えてまず間違いない。暴動は確かに激しいが、深刻な人的被害が出ていないのは、そうした当局の意向に沿ったものであると言えるのではないか。中国版ツイッターなどのインターネット上での書き込みには、冷静さを呼びかけるものが見られるが、これは、中国外交部(外務省)報道官による「要求は合法的になされなければならない」という記者会見の内容と同じである。中国当局のネットを厳しく管理しようとする姿勢を考えれば、どういうことが起こっているのか、およそ想像がつくというものである。そして、中国当局の最大の懸念は、日本批判が政権批判に転じることだが、それはまだ抑え込むことができている。
一方、今回の反日デモには、共産党内部での権力闘争があるのではないかという推測もある。中国共産党は、今月中にも習近平を次期総書記に選出することがほぼ確定しているが、権力を温存しておきたい胡錦涛派が揺さぶりをかけているのではないかという推測である。習近平は党幹部の子女を中心とする「太子党」に属し、胡錦涛は共産党青年団を中心とする支持を受けていることは、よく知られている。習近平と同じ太子党の薄煕来前重慶市長の失脚も、両者の暗闘が原因であった。習近平が9月に入ってしばらく姿を現さず「行方不明」となる事件があり、その間に健康不安説が流されたりした。歴史を振り返ってみれば、文化大革命のとき、林彪を失脚させるのに、林彪を孔子になぞらえて孔子排斥をする「批林批孔」というのがあった。そういうわけで、反日デモと共産党内部での権力闘争に関係があるという確たる証拠はもちろんないが、疑いを抱く理由はある。ただ、いずれにしても、今回の反日暴動は、仮に多少長期化したとしても、日中関係において根本的なものとはいえない。むしろ、中国の国内問題である。
日本人が反日暴動に目を向けるのは自然なことではあるが、そればかりに目を奪われることには、危惧を覚える。尖閣沖での中国の海洋監視船「海監」と漁業監視船「漁政」の示威行為、そして、さらに深刻な、中国による尖閣を領海の基点とする海図の国連への提出という事態があった。マスコミの取り上げ方を見ていると、日中関係にとってより本質的な、こうした重要な出来事を閑却して、「絵になる」センセーショナルな暴動シーンばかり取り上げたり、あるいは、経済への影響を心配するかである。これは、極めてミスリーディングで危険なことである。結果的に、反日暴動が目くらましとなって、その裏では、尖閣を危うくする事態が着々と進行している。日本国民は、このことにこそ強く危機意識を持つ必要がある。大いに警鐘を鳴らしたい。
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