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2006-08-04 00:00
東アジア共同体は長期的課題であることを銘記すべし
石垣泰司
東海大学法科大学院教授
7月26日付け「CEACコラム」掲載の村田晃嗣氏の「北のミサイルの残した外交課題」と題する論考は、北朝鮮によるミサイル連射行為の真の狙いが奈辺にあったにせよ失敗に終わり、国際的な対北朝鮮包囲網の形成を促す結果となったことを正しく指摘している。
しかし、他方において、村田氏は、同事件がいくつかの外交課題を残したことをあわせ指摘しておられるところ、その中で、「東アジア共同体を軸にした地域安全保障といった議論が、いかに虚ろなものであるかも、今回の事件で改めて明らかになった」としておられる点については、もし、同氏が今回のミサイル事件を契機として改めて「東アジア共同体」構想自体に疑問を抱かれたとするならば、首肯し得ない。東アジア共同体構想については、昨年4月中国で発生した大規模な反日デモ事件の際にも、かかる日中関係の現状では、東アジア共同体といったものは夢のまた夢ではないかとの懐疑論が叫ばれたことが想起される。しかし、東アジア共同体というのは、あくまで長期的課題であり、多様な国家から構成され、いまだに冷戦構造を残す東アジア地域で生ずる諸事件の発生の度ごとに一喜一憂し、構想自体に疑問を投げかけるべき性質のものではないことを肝に銘じるべきであり、この機会に東アジア共同体の性格および関係諸国の取り組みについて私見を述べさせていただきたい。
まず第一に、近年、東アジア共同体構想がしきりに論議されるようになったのは、東アジア地域における関係国間協力が成熟を遂げ、ついに経済的、政治的、安全保障上の統合に移行する段階に達するに至ったからというのでは全くなく、東アジア地域においてはいまだ多くの問題が存在し、国家関係についても2国間でみれば障碍が多々あるが、そのような諸困難にも拘わらず東アジア共同体構築を1つの重要な目標として取り組んで行くべきであるということにつき関係国間で共通認識が得られたからである。従って、これら関係諸国としては、今回のミサイル連射事件が発生する以前から北朝鮮を将来の東アジア共同体へどう組み込むか、さらに台湾のステータスをどう考えるか等未検討の困難な問題が存在することを認識した上でのことである。ASEAN内部においても近い将来打開の見通しもないミャンマー問題等やっかいな問題を抱えた上での取り組みとなっている。
第二に、東アジア共同体を構築するとなればいずれ機構・制度面の詳細について具体的合意を得ることが重要となるが、この面の検討はほとんど手つかずであり、将来の課題となったままである。
第三に、重要なことは、このような状況下で、昨年12月ASEAN+3サミットと第1回東アジアサミットが当初の合意通りクアラルンプールで開催され、東アジアサミットについては毎年開催が決定され、本年12月のセブでの第2回東アジアサミット開催についても異論を差し挟む者なく粛々として準備が進められつつあることである。さらに最近はインド、豪州、NZを含む東アジアサミット構成16カ国による各種分野の地域協力諸会議も日本等のイニシャテイブで開催されるようになった。
第四に、東アジア共同体のドライバーとして自他共に許すASEAN自体も将来の統合に向かって着実に前進しつつあり、さる7月下旬マレイシアで開催されたASEAN外相会議においては、経済、安全保障、社会文化の三位一体での統合を目指す「ASEAN共同体」の達成目標年度の2020年を5年前倒して2015年に繰り上げる方向で努力することについて申し合わせが行われた(同閣僚会議コミュニケ第7項)。
このように、東アジア地域の関係諸国は、これまでのところ、北朝鮮のミサイル連射等諸事件の発生をものともせず、且つ、いささかの後退もなく、将来の東アジア共同体構築に向けて着実に歩みを進めているのであって、我が国としてもこれらの動きに取り残されるようなことがあってはならないと考える。と同時に、さる5月31日東アジア共同体評議会の第15回政策本会議で、井戸清人財務省国際局長がハイデラバード会議(ASEAN+3財務大臣会議)について報告された際、アジア地域共通通貨の可能性についてはユーロでも50年かかったことを考えれば、社会・経済発展面で大きな格差があるアジアでは100年以上かかってもおかしくはないと述べられたが、東アジア共同体構築への取り組みというのはそのような長期的課題であることを改めて認識した上で取り組む必要があろう。
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