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2012-09-07 00:00
(連載)「主権国家としてのオーラ」を欠いた日本(2)
袴田 茂樹
新潟県立大学教授
もし日本が、例えばこの7月メドベージェフの再訪問に対して、主権国家として当然の態度を示していたなら、つまり予定されていた日露外相会談を中止するなど、抗議の意思を単なる言葉でなく行動で示していたなら、李明博大統領の竹島訪問はあり得なかった。一昨年9月の尖閣事件についても、ビデオをすぐ公開し拘留した船長を起訴するなど当然の対応を取っていたなら、最近の中国船の尖閣諸島付近での挑発的な行動や今回の尖閣事件も起きていなかった。ちなみに、今回の尖閣事件のビデオは、長時間のものが30分に編集されて国会議員やマスコミ関係者に公開されたが、マスコミで報じられた中国の活動家が煉瓦を海上保安庁の舟に投げつける公務執行妨害の場面などは削除されている。情けないことに、「気配り外交」が国家主権の擁護よりも先行しているのだ。
じつは、これまで述べたことは前置きで、私が本当に述べたいことは、以下のことにある。日本のこの「去勢国家」とも言える卑屈な状況に対しては、日本政府や外務省だけでなく、むしろ平和ボケした日本国民や、主権問題、領土問題を蔑ろにしてきた専門家や不勉強なマスコミ人に大きな責任がある、ということである。例えば7月末に日露外相会談がロシアで予定されていたが、そのことを承知でメドベージェフは7月に国後を訪問し、挑発的かつ侮辱的な言葉を述べた。わが国には、これはあまりにも無礼であり、抗議のために外相会談はキャンセルすべきだ、との強い意見もあった。仮定の話だが、抗議のために日本政府が外相会談やプーチンとの会談を中止したとする。つまり、外交の国際常識では当然のことを日本側が行ったとする。その結果はどうなるだろうか。火をみるよりも明らかなことがある。それは、日本のマスコミには次のような批判が一斉に沸き起きるということだ。
「ロシア側は、少なくともプーチン大統領は、北方領土問題の解決に意欲を示している。今回も彼は、異例の待遇で、わざわざ日本の外相と会いましょうとまで言っていた。にもかかわらず、日本側が感情的で近視眼的な対応をした結果、またもや日露関係が台無しになってしまった。第1期のプーチン政権以来、メドベージェフ大統領時代も含めて、ロシア側はしばしば平和条約問題に柔軟な姿勢を示し、解決のためのシグナルを何回も送っていた。しかるに、日本政府の愚かで硬直した対露政策によって、その都度、絶好のチャンスを逃してきた。今回もその典型的な例である。」
かかる論調が如何にナンセンスかは、本欄の読者にはもはや説明は不要だろう。政府や外務省の中には、リアリストとしてこの問題の本質を理解している者もいる。しかし、国際常識に沿った対応をした場合、日本ではマスコミや政治家などから、彼らが袋叩きに遭うということも知っていただろう。今回プーチン大統領が日本の外相に会うという「厚遇」を示したのも、領土問題解決の意欲からではない。メドベージェフ首相の行動ゆえに、日本の政界や世論の中に、外相会談はキャンセルすべきだとの強い意見が生じたからである。もしそのような毅然とした主張がなかったら、プーチン大統領が玄葉外相と会談することはあり得なかった。現在プーチンには、国後、択捉の帰属交渉はもちろん、歯舞、色丹の2島返還の意思もそのための政治力もない、そのことは、日本が卑屈と思えるほどの善意をロシアに示して行った玄葉外相とプーチン大統領の会談、ラブロフ外相との外相会談の結果を見れば明らかだ。この客観的かつ冷厳な事実を、日本側はもっときちんと認識すべきである。(おわり)
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