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2012-09-06 00:00
牛肉の輸入制限は、緩和ではなく直ちに撤廃せよ
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
内閣府食品安全委員会の専門調査会が、BSE感染を理由とする米国産牛肉の輸入制限を現在の「月齢20か月以下」から「同30か月以下」に緩和するという、国の食品健康影響評価の原案を了承した。原案は、米国産牛肉の輸入制限を月齢30か月以下に緩和するリスクは非常に小さく、あったとしても健康への影響は無視できる、としている。世界のBSE発生報告は、1992年には約3万7000頭であったが、昨年は29頭であった。また、専門調査会が月齢21及び23か月の確認例から採取した異常プリオンをマウスに投与する実験を実施したところ、感染性が確認されなかったと報告されているとのことである。現在の輸入制限を継続することには全く合理的な根拠がないといってよい。緩和は当然である。
月齢20か月以下という輸入制限は、国際的基準から乖離する不当に厳しいものである。例えば、国際獣疫事務局(OIE)は、2005年の年次総会において、拘束力は持たないものの、BSE安全基準を緩和する決議を採択している。その内容は、 (1)特定危険部位を除去した骨なし牛肉は無条件で輸出入を認める、(2)特定危険部位の除去を必要とする月齢は従前の12カ月齢から30カ月齢に緩和する、というものである。さらに、2007年にはOIEは、米国を月齢制限なしで牛肉を輸出できる「準安全国」と認定しているのである。したがって、今回了承された輸入緩和は、遅きに失した対応であり、直ちに制限を撤廃するのが適切である。
BSE対策としての牛肉の輸入制限措置の撤廃は、米国産牛肉ばかりに焦点が当たり、「米国の圧力に屈するか、日本の食の安全を守れるか」という、極めてミスリーディングな感情論に基づいて議論が進んできた傾向がある。しかし、我が国は、米国だけでなく、英、仏、オランダ、カナダなどに対してもBSEを理由として、牛肉の輸入禁止や制限の措置をとっている。この一点だけからも、対米従属か否かという論点が如何に的外れであるか明白である。他の国に関しても国際基準から逸脱しないようにするのが筋である。今回、カナダ、フランス、オランダについても緩和するとしているのは極めて当然であり、これも直ちに緩和から撤廃へと進めるべきである。
我が国は、「食の安全」を金科玉条にしてBSE対策を行ってきた。食の安全が重要であることは論を俟たないが、国際的に常識的な基準や国際的ルールを大きく逸脱すべきではない。そういうことをすれば、非関税障壁であるとして非難の対象となっても文句は言えない。TPP交渉への参加に当たっても、米国は、日本の牛肉輸入制限を問題視している。ダブルスタンダードで貿易の自由化を求めることは許されない。我が国は通商国なのだから、こうした観点をもっと強く持つべきである。「食の安全」を理由にしたものであっても、行き過ぎた規制は、通商国家としての自殺行為であると言っても過言ではない。それでもなお米国産等の牛肉に不安を持つ消費者がいる、という反論があるかもしれないが、自由主義市場経済なのだから、そういう消費者は、米国産等の牛肉を買わなければよいだけの話である。産地偽装が行われないような制度の運用を徹底させる必要はあるであろう。
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