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2012-08-30 00:00
尖閣問題で中国は当面強く出られない
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
8月15日に香港の活動家が尖閣に不法上陸して国外退去処分となり、一方日本側は、地方議員が国の不許可を無視して上陸を強行した。その結果、中国では反日デモが散発し、丹羽宇一郎駐中国大使が乗車している公用車が襲撃され、日本国旗が奪われるという事件も起こった。大使の公用車襲撃などは、外交関係に関するウィーン条約違反の暴挙である。しかし、大局的に見れば、少なくとも当面は、中国政府自身が尖閣問題で強硬な対応をすることはできない。そういうことをして反日デモを煽る刺激を与えたくないからである。しばしば指摘されているように、中国政府は反日デモが反政府デモに転化することを極度に恐れている。共産党政権の唯一のよりどころともいうべき経済成長が鈍化していることに加えて、薄煕来事件が共産党政権の腐敗ぶりを白日のもとに曝し、共産党支配の正統性に疑問符がつきやすい状況となっている。さらに、11月には習近平への権力移行が予定されている。したがって、不測の事態は何としても避けたいのである。
今回の尖閣の件での反日デモに関して、中国のメディアやネットで、暴徒化に苦言を呈する論調が目立っている、と報じられている。中国のメディアは、いうまでもなく中国政府の代弁者であるし、ネットへの書きこみも当局の工作員によるものが少なくないと判断するのが自然である。ネット上で公表された「日本車を壊した愛国者への手紙」なるものは、「四川大地震では日本車で被災地に薬品を届けた。人民解放軍や警察の日本車も支援に向かった。愛国者は、反日と言いながら中国人を攻撃しており、日本人よりも酷い」と言っている。これは、印象的であり示唆的でもある。
もちろん、中国の尖閣への野心は根本的には全く変化しておらず、警戒を怠ってよいなどということは絶対にない。とりわけ、漁業監視船「漁政」や海洋監視船「海監」といった、軍ではない政府所属の艦船による、我が国の実効支配に穴を開けようとする活動には、最大限の警戒を要する。こうしたことに対応するには、我が国は、まず第一に海保のリソースを増強することが肝要である。漁政や海監の日本側のカウンターパートはあくまでも海保である。
中国政府が身動きをとりにくくなっている間に、我が国は、着実に尖閣の実効支配を強化していかなければならない。その意味で、香港の活動家を裁判にかけずに国外退去処分としたのは、やはり好機を逸したというべきで、大失策である。厳格な司法管轄権の行使が望まれる。また、生態系の調査や、気象観測装置の設置なども検討すべきであろう。一方、自衛隊単独、および日米合同での離島防衛の軍事演習を頻繁に実施するとともに、自衛隊の離島防衛能力を高めることも肝要である。防衛省は、離島が占拠された際に上陸作戦を行って奪還できるよう、水陸両用強襲車を導入する方針だと伝えられており、是非円滑に導入されることを期待したい。
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