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2006-08-01 00:00
中国は地球規模でのプレーヤーか
杉内直敏
日本国際フォーラム参与・東アジア共同体評議会副議長
5月15日付CEACコラムの叶芳和氏による「米中による世界共同管理の台頭」に関しては、既に西岡健司氏、斉藤欣一氏、吉川潤一氏、浜崎真一郎氏が投稿しておられるが、若干別な角度から私なりの見方を付け加えてみたい。
叶氏が指摘するとおり中国の経済状態が急激に良くなっていて、そうした急速な経済成長を背景に中国が自信をつけ国際社会とどう関わって行くかについての考え方を変えつつあるとの点は容易に理解するところである。一方、米国と一緒になって世界管理を行うかについては私も他の投稿者と同じく懐疑的である。米国との関係については西岡氏、吉川氏、浜崎氏が適切に論じているので後述部分を別として繰り返さない。私は中国の意図と能力の双方から考えて一気にそこまでの結論を導くのは不自然と考える。中国の経済活動が地球規模になり、そうした活動を今後も支えていくより良い環境を整備するため中国が影響力を行使していこうとするのは当然である。特に、資源、エネルギー、食糧確保の見地からそうした動きは加速化するであろう。しかしながら「世界を管理する」にはすべての国・地域を動かす圧倒的な力を必要とする。そうした力を獲得することは世界的な経済力をもってしても容易ではないことは世界第二の経済大国の地位と共に長年にわたって多大の努力を払ってきた我が国自身を振り返っても明らかと思う。各国の敬意と信頼を獲得していくためには国家としての総合力を駆使した永続的、かつ地道な努力を要するのではないだろうか。因みに中国は国連安保理常任理事国の地位という日本にはない国際政治力の源泉を有しているが、煎じ詰めればそれは拒否権であって物事が動くことを押しとどめるときに有効であるが、何かをポジティブに動かそうとする上ではそれほど大きな力にならない。いずれにせよ、こうした国際社会の現実は中国もある程度は理解していると思うし、実際中国が狙っているのは、先ずは地域の大国として不動の地位を確保することであって初めから地球規模でのプレーヤーとなることを求めてはいないと思われる。
一方、東アジアにおいて中国が経済面を越えて影響力を高めていくことは不可逆的であり、地域の諸国のみならず域外の国々もそれを織り込んだ対応をとり出している。そこで米国に関しても一言したい。米国は民主主義の擁護を自らの使命とするが故に共産主義の中国には一線を画さざるを得ない国柄であり、また我が国との間には安保条約を基盤とする強い絆がある。だからと言って米中接近はあり得ないと考えるとしたら間違いである。台湾や人権等に関する基本姿勢と日米安保を揺るがさない範囲では、何があっても不思議ではない。いずれの国も自らの国家・国民の利益擁護のために日夜腐心するのであって、たとえ主義主張を異にする相手であっても協調することが可能であれば追求するのが国際社会の現実であると思う。中米間においても大量破壊兵器の拡散、国際テロ、環境問題、感染症等、また北朝鮮への対応をめぐってお互いに利益を見出す分野は今後も増えるであろう。その一方で、緊密化する経済関係が両国間で摩擦を生み出すであろうことも現実である。米中関係に新たな協力関係が伝えられるたびに衝撃を受け、我が国外交の根幹が揺さぶられかねないと嘆くのは無意味である。特定の側面にのみ目を奪われて極端な結論に走るのではなく、国際社会の現実を見据え冷静かつ大局的判断に立って国益擁護のために果敢に行動する日本外交であって欲しいと思う。
以上の文脈において叶氏の論説の意義は、日米同盟関係を根拠にあらゆる分野、局面における緊密な日米協調を当然視し安住することに警鐘を鳴らし、また日本外交に対して現実的な対応を期待する見地からの問題提起と理解したい。
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