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2012-08-23 00:00
野田は問責成立でも会期切れに逃げ込む
杉浦 正章
政治評論家
どうしてこう見え見えの淺知恵を考え出すのだろうか。民主党幹事長・輿石東が、1票の格差是正を「潰す」のが狙いで、「今国会でやる」と突然強硬なる国会運営に転じたのだ。これによって、定数是正の早期実現は返って遠のくことになる。遠のけばどうなるかだが、野田の解散がやりにくくなる。解散がやりにくくなれば、政権政党の座に一日でも長く居座れる。任期3年を過ぎれば国民に信を問うのが憲政の常道なのに、「浅ましい」としか言いようがない。与野党は解散をめぐって再び激突モードに入った。民主党は8月22日、衆院選挙制度改革関連法案の単独で審議入りをするなど、一気に強気な国会運営に転じた。輿石の立てた戦術はこうだ。まず、誰に考えさせたか独自の素人っぽい法案を提出した。最高裁が「違憲状態」と判断した1票の格差を是正するため、小選挙区を5つ減らす「0増5減」を行うとともに、比例代表の定数を40削減し、一部に「小選挙区比例代表連用制」を導入する内容だ。
一方で自民党は「0増5減」だけの法案を提出しているから、調整すれば定数改正だけは実現できるものなのに、それをしようとしない。しないどころか、比例定数削減などを何の根拠もなくくっつけたのだ。本来なら制度改革は選挙制度審議会を設置してやるのが筋なのに、それをしない。なぜかと言えば党利党略に利用するためだ。輿石は22日、「選挙制度改革は、極めて重要。なんとしてもやり抜く」と宣言したが、その裏には自民、公明など野党の反発を読んで、むしろ野党の怒りを誘って、定数是正を潰し、解散の先延ばしを図る“本音”がうかがえるのだ。もちろん野党にもメディアにもすぐに意図を読まれてしまっては、怪僧ラスプーチンばりの陰謀もからっきし無駄になっていることに気付かない。自民党政調会長・茂木敏充が「民主党は、法案を成立させたいのではなく、混乱を生じさせて、衆議院の解散の時期を少しでも先延ばししたいという魂胆が、透けて見える」と看破すれば、公明党代表・山口那津男も「選挙制度を与党のみで強行する姿勢は、言語道断」と憤った。
怒り心頭に発した自民党は、23,24日の予算委員会質疑で首相・野田佳彦の尖閣上陸事件をめぐる対応のまずさを突いた上で、首相問責決議案を29日にも参院に上程する構えだ。上程すれば、野党の多数で可決される。首相問責決議は法的な拘束力はないが、一院が首相の存在を拒否することの政治的意味は大きい。過去には福田康夫と麻生太郎に対する問責が可決されている。両首相ともすぐには対応しなかったが、結局福田は3か月後に退陣、麻生は選挙大敗を受けて2か月後に退陣している。今回は麻生のケースと似ている。首相・野田佳彦がどのような対応に出るかだが、国会がストップしても、おそらく野田はそのまま9月8日の会期切れに逃げ込もうとするだろう。自民党がこれを止めるのは極めて困難だろう。しかし、赤字国債発行法案成立のデッドラインは10月だから、野田は臨時国会を召集せずに逃げるわけにはいかない。その臨時国会では冒頭から激突だ。衆院への不信任案、参院への問責決議案が再び上程されて、国会は初日から空転する。おそらく野田は解散を条件に赤字国債法案の成立を図らざるを得なくなる、というのが大筋の展望だろう。輿石が最後の悪あがきをしても、早期解散への流れは止められないのだ。「近いうち解散」とならざるを得ないのだ。
この間9月下旬には、民主、自民両党共に党首選挙があるが、野田は元農水相・山田正彦程度が対立候補なら楽勝だろう。谷垣がどうなるかだが、ここに来て自民党独自の選挙情勢調査が影響し始めている。今選挙をやれば圧勝の流れだ。その流れの上にいる谷垣を降ろすわけにはいかない、という空気が生じ始めているのだ。したがって幹事長・石原伸晃も前政調会長・石破茂もちゅうちょしている。恐らく谷垣再選の流れだろう。こうして野田対谷垣が政局秋の陣でも対決するという形となりそうだ。ただ自民党にとって苦しいのは、定数是正が先延ばしになることだ。同法案だけは通しておかないと、選挙後に各地で起きる違憲訴訟で苦しめられる。最低2か月は区割りなどの準備が必要だから、今国会成立は不可避だ。したがって激突の中でも「0増5減」だけは成立させておかなくてはならないわけだ。谷垣は違憲訴訟もやむなしの腹をくくるかどうかの判断を迫られるかもしれない。
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