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2012-08-20 00:00
「事なかれ主義」に徹した民主政権の尖閣上陸事件対応
杉浦 正章
政治評論家
「今度やったら承知しない」と外務副大臣の山口壮が“遠吠え”をしているが、遅いのである。尖閣上陸事件で香港の海賊のような活動家連中は「10月にもやる」と高笑いしている。この場面は、どう見ても上陸させるべきではなかった。洋上で公務執行妨害の現行犯として逮捕、送検して、国内裁判にかけるべきだった。事件の全容が判明するにつれて、民主党政権発足以来の外交・安保脆弱体質が、またまた鮮明化してきた。終盤国会での焦点になることはもちろん、首相・野田佳彦に対する問責決議案の材料にもなり得る。秋の総選挙では民主党政権にとどめの一撃となるだろう。2年前の突発的な尖閣事件と異なり、今回は活動家が香港を出航して以来、首相・野田佳彦と各省の間で十分な作戦の時間があった。しかし、そこで練り上げた対処方針は、2年前の羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹くものであった。何のことはない。8年前の2004年に首相・小泉純一郎が「日中関係に悪影響を与えない大局的な判断」として行った措置と同じだ。送検せず強制退去させるという早期決着路線だ。
明らかに首相官邸が絡んで「事なかれ主義」に徹したシナリオが作られた。断片情報を整理すると、まず野田が「死者を出すような事件に発展させないように」との大方針を示した。その結果、当局は「洋上での逮捕はせずに、上陸させてから逮捕する」シナリオを作った。小泉の時は、警官がいないため逮捕まで10時間かかったが、今回はあらかじめ警官を島に待機させておくという形にしたのだ。政府関係者は「シナリオなどない」と否定するが、それではなぜ警官が事前に上陸していたのか。子供でも推理可能なことを否定すべきではない。海上保安庁の巡視船が取り囲んで、明らかに警官の待機する浅瀬に向かって、「泥船」(元外相・高村正彦)を追い詰めたのだ。この場合、上陸させないことは、事件再発を防ぐ意味でも、日本の毅然(きぜん)とした領土保全の意志を示す意味でも、重要ポイントであった。首相周辺は「大局を見据えた対応」と述べているが、果たして大局を見据えていただろうか。筆者は、小泉の時とは情勢が根底から変化したと見る。小泉の時には中国の海洋進出はそれほど顕著ではなく、ほぼ南シナ海に限られていた。それが近年明らかに尖閣意識の対応となってきたのだ。中国政府も領土問題の主張で使う最終的な用語「核心的な利益」を使い始めた。
中国は鄧小平の遺訓など、とっくにぬぐい去ったのだ。同遺訓は「こういう問題は一時棚上げしても構わない。10年棚上げしても構わない。次の世代はきっと我々より賢くなる。そのときは必ずやお互いにみんなが受け入れられるいい方法を見つけることが出来る」というものだ。鄧小平の狙いは、尖閣問題を改革開放路線を進めるために日本の資本を導入する「鍵」として使ったに過ぎない。いわば日本“たらし込み”の道具に使ったのだ。その狙い通り、中国経済の発展の現状は、もうこの遺訓にこだわる必要がなくなった。そして中国の膨張主義が、本土・沖縄・尖閣列島・台湾・フィリピンと続く第一列島線で、米国と対峙する構図へと発展、尖閣諸島はその象徴となったのだ。この中国が捨て去った鄧小平の発言を、金科玉条としていまだに大切にしているのが、外務省であり、その影響下にある野田なのだ。そしてこの情勢の変化を敏感に感ずることもなく、「小泉がやって成功したから、自分も成功するだろう」と柳の下に2匹目のドジョウを求めたのが、今回の対応である。「最低でも県外」と発言した、あの馬鹿の見本の首相・鳩山由紀夫や、尖閣事件の処理をこともあろうに那覇地検に押しつけた首相・菅直人と五十歩百歩の対応である。大局観があるなどとはとても言えまい。
今後どうなるかだが、尖閣国有化路線は、たとえ野田がつぶれても、次期政権では引き継がざるを得まい。これこそ「愚かにも」日中間にくさびを打つことに成功した都知事・石原慎太郎の思惑通りに進展してゆくことになる。東京都が買うにせよ、国が買うせよ、国との賃貸契約が終わる来年3月か、遅れても4月が、私有地から公有地に移行する時期だ。その時期は、3月の全国人民代表者会議で習近平を国家主席に選出する時期とぶつかる。尖閣問題は、習の最初の仕事になろうとしているのだ。習は国内世論統一に向けた絶好のチャンスとしてこれを活用するだろう。直接的な武力衝突以外のあらゆる強硬手段を打ち出す可能性がある。これに先立ち、香港の活動家連中が、これまた得体の知れない中国本土の市民運動家と連携して、動きを見せる可能性もある。漁船の“艦隊”を組んで尖閣上陸を試みる可能性を否定出来ない。むしろ狙っていると見るべきであろう。中国政府も今回と同じように陰に陽に応援するかもしれない。日本は「政治空白を作っていられない」(首相補佐官・長島昭久)などと言っている場合ではない。予定通り臨時国会冒頭解散に追い込み、外交・安保を新政権で立て直さなければなるまい。とかく問題は多いが、この際自民党政権に早く代えて対処するのが国益だろう。米国が離島防衛のために配備しようとしているオスプレイの導入が必要なことなど論議の余地もない。朝日新聞は上陸事件に関する社説で「日本としては、領土を守る備えを静かに強めるべきだ」と主張しているが、その「強める」の中にオスプレイがあるのだろうか。一方で、20日付天声人語ではまだ「10月配備の台本に沿って事を進めるなら、乱暴に過ぎる」と主張しているが、「強める」とは矛盾するではないか。米軍の手足を縛って「離島を防衛せよ」と言うのか。中国の狙いはまさにこの“揺らぐ”日米安保体制の間隙を縫うところにある。天声人語は、もう少し“安保観”を勉強すべきだ。
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