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2012-08-06 00:00
(連載)ユーゴミサイル輸出と「平和利用」(1)
鈴木 一人
北海道大学大学院法学研究科教授
2012年7月15日の朝日新聞で「日本のロケット技術、旧ユーゴで軍事転用 元軍幹部証言」との記事が出された。これは拙著『宇宙開発と国際政治』でも取り扱った事柄なので、興味をもって読んだ。この記事では1960年代(正確には1950年代)から糸川英夫博士率いる宇宙科学研究所が開発した固体燃料を推進剤とするロケットが当時のユーゴスラビアに輸出され、それがミサイルとして転用されたことを、当時のユーゴ軍関係者が証言したという。
こうした証言が具体的に出てくるのは、私が知る限り初めてであり、その意味ではこの記事の資料的価値は大きい。しかし、記事およびその解説でも、拙著で取り上げた問題点が議論されず、やや歪曲した理解になっているような印象も受けたので、ここでコメントしておく。まず、当時の宇宙科学研究所による宇宙開発は、明示的ではないが、科学者が行うものであるから、「平和利用」であるという大前提が共有されていた(大前提というよりは思い込みに近い)。また、ユーゴへのロケット技術の輸出は、解説記事でも書いてある通り、「平和技術によって外貨を稼ぐ有力な手段としても、ロケット輸出を肯定的にみる風潮が国内にはあった」。
つまり、当時はロケット(とりわけ固体燃料ロケット)がミサイルに転用されるということについて、ほとんどといってよいほど懸念されることはなく、政治的なイシューとして取り上げられた形跡はない。しかし、当時アメリカは日本が独自でロケットを開発することで、自力で弾道ミサイルの開発が可能になること、また、その技術が第三国に移転されることを恐れていた。それゆえ、アメリカは日本に対して、ミサイルへの転用がより難しい液体燃料ロケットの技術移転を申し入れたのである。
ところが、その時に突如として反応したのが社会党であった。アメリカのロケット技術は軍事目的で開発されたミサイル技術の応用であり、アメリカの技術が導入されることになれば、日本もロケット技術をミサイル技術に転用する恐れがある、として、1969年に「宇宙の平和利用決議」を提唱し、ロケット開発を進めるために自民党も含め、この提案を受け入れ、全会一致で決議が採択された。それ以来、宇宙の「平和利用原則」は日本に定着したのである。なお、「宇宙の平和利用原則」は日本だけでなく、例えば欧州各国が協力して設立した欧州宇宙機関(ESA)の憲章にも「もっぱら平和的目的のみ(exclusively peaceful purpose)」との文言が入れられている。(つづく)
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