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2012-07-26 00:00
真の意味での日本の独立を改めて考えさせる書
山下 英次
大阪市立大学名誉教授
『維新と興亜に駆けた日本人―今こそ知っておきたい二十人の志士たち』(坪内隆彦著、展転社、220011年11月)の書評を述べたい。本書は、藩閥政治によって、損ねられていた明治維新の建国の理想を取り戻そうとして活動したわが国の興亜の思想家20人を紹介することを通じて、独立心を持った本物の日本人像を浮かび上がらせようとしたものである。具体的には、西郷隆盛、副島種臣、杉浦重剛、頭山満、植木枝盛、陸羯(くがかつ)南(なん)、荒尾精、岡倉天心、近衛篤麿、杉山茂丸、宮崎滔天、内田良平、等々の志士たちが取り上げられている。著者(『月刊 日本』の編集長)が、これらの志士たちが共通して持っている思想上の信念としてみているのは、以下の3点と思われる。第1は、明治維新後の行き過ぎた西洋かぶれ路線を修正し、外交の主体制を取り戻す。第2に、そのためには、日本は興亜に尽くすべきである。第3に、国学、陽明学、崎門学、水戸学など江戸期以来の国体思想を継承する。
1894-95年(明治27-28年)の日清戦争後、現実に日本人の間に、中国軽視、中国嫌いの傾向が非常に強く見られるようになったが、本書で取り上げられている志士たちは、そうした傾向とは一線を画し、あくまでも興亜に尽力し、それを通じて日本の独立性を維持しようとした。日清戦争後の日本人の対中感情は、後に昭和期の日中戦争へとつながっていった。例えば、昭和8年(1933年)に、東大生に行ったあるアンケート調査によれば、約90%が「悪い中国を懲らしめるべき」と回答している。このような国民感情を背景に、当時の軍部は、特に確たる目標も戦略も持たず、「対中膺懲(ようちょう)」(中国を征伐して懲らしめる)という感情に支配されて、ズルズルと日中戦争の深みにのめり込んでいってしまったのではないかと、評者は理解している。
昨今の日本でも、また、同じように、中国に対する国民感情がかなり悪化している。そして、かつてとは異なり、わが国の独立性の維持を重視するような人たちの間でさえ、中国嫌いの傾向が強く見られる。しかし、興亜に尽くさないで、わが国が真の独立を果たすことなど、評者には到底想像できない。わが国が、歴とした独立国になるためには、脱米とまでは言わないまでも「離米」と、日本のアジア地域統合への積極的な関与が不可欠である。その二つのうちいずれか一つが欠けても、わが国は、歴とした独立国にはなれない。これは、戦後のドイツからわれわれが学ばなければならない最も重要な教訓である。同じ敗戦国、しかも日本より遥かに立場の困難な分裂国家から出発したドイツは、欧州統合に身を捧げることを通じて、近隣諸国からの信頼を勝ち得ることに成功し、それよって「離米」を実現した。そして、2003年の米国のイラク攻撃では、誰よりも先にシュレーダー前政権が真正面から反対するなど、ドイツは今や歴とした独立国となった。日本人は、同じ敗戦国でありながら、日独の立場が、今日、なぜこのようにかけ離れたものになってしまったかに、深く思いを致すべきである。
本書は、「未曽有の国難に直面した現在、義を貫き、己を捨てて公に尽くす西郷南洲や副島種臣のような人物がわが国を指導していたならば、と思わず考えてしまう」という一文から始まる。本書は、憂国の書であり、著者は、「本書で取り上げた志士たちの壮絶な生涯を通じ、本来の日本人の生き様が再確認され、そのような真の日本人によって、再びわが国が始動される日が来ることを願ってやまない」と主張する。実際、現在のわが国には、政官産学の各界ともに、国の独立性に無頓着で、誇りを失った人間が多すぎる。地を這うような現実にばかりとらわれていては、現状から決して脱出できない。高い理念を掲げ、「べき論」から出発して、わが国の安全保障政策を根本から問い直さなければならない。本書は、わが国の真の意味の独立ということに関心を持つ人すべてに、一読を勧めたい好著である。
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