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2012-07-02 00:00
永田町に「赤字国債」人質の解散説
杉浦 正章
政治評論家
民主党元代表・小沢一郎の離党で民主党政権は“おんぶお化け”がようやく外れる。一方新党に走る小沢の将来展望はない。お先真っ暗とはこのことだ。こうして政権政党の内部抗争は一段落する方向となった。首相・野田佳彦は当分「脱小沢・自公依存」の流れに乗らざるを得ないだろう。よほどのことがない限り、消費増税法案も成立する。そこで台頭してきたのが「8月解散・9月選挙」説だ。ここに向けての自民党の必死の追い込みが始まる。永田町では野田が「話し合い解散」に応じなければ、自民党が赤字国債発行のための特例公債法案と絡めて、内閣不信任案を上程して、無理矢理解散・総選挙に持ち込むとの説が流れ始めた。君子豹変と言うが、君子でなくとも豹変することが分かった。幹事長・輿石東のNHKにおける7月1日の発言は大豹変もいいところだ。まず、これまで小沢の意向を忖度(そんたく)して消費増税法案の“継続審議”を図ろうとしていた方針を転換「1日も早く成立に全力を挙げるのが、わたし自身の責任」だそうだ。
これまで「衆参同日選挙」を主張してきたことは、とんと忘れたかのように「大震災、消費増税法案、原発再稼働の3つの山を越えて、時期は国民の皆さんがどう考えるかだ」と“解散あり得る”に変わったのだ。これは、明らかに小沢を見事なまでに見限って、野田にピタリと寄り添い始めたように見える。こうして小沢は最後のつっかい棒が外れたことになる。もう「新党」しか道は残っていまい。「小沢新党」に集まる衆院議員の数はせいぜい40人程度とみられている。参院は10人余りだ。この結果、衆院では新党きずなの9人と合わせても内閣不信任案を提出できる51人には達しない可能性がある。そうなれば小沢の最後の手段である不信任案での“政局引っかき回し”もできにくいことになる。小沢は、世論調査でも8割が支持しない「新党」で、総選挙大敗による「政治的な討ち死に」を待つばかりとなる。こうして野田は、小沢とのデスマッチに勝利を収めたことになるが、一難去ればまた一難というのが実態だ。今度の一難は負けるかも知れない一難であり、小沢問題ほど生やさしくはない。
というのも、早期解散による政権喪失が前途に口を広げているのだ。党内抗争などとは比較にならぬ厳しさだ。解散・総選挙問題は、消費税の与野党協議をまとめるに当たり、野田が電話で自民党総裁・谷垣禎一に協議成立との引き替えで「話し合い解散」をほのめかしたという説がある。しかし、谷垣の姿勢は、例え密約があったとしても、ゼロから追い込まなければ、解散は達成できないという判断であるように見える。1日のNHKでも「特例公債法案解散」に意欲的とも見える姿勢を見せた。明らかに理論武装して準備している発言である。まず谷垣は「自民党提出の予算組み替え動議は一顧だにされなかった。使い道を一顧だにせずに、収入の方は賛成せよと言っても難しい」と同法案に反対する姿勢を明らかにした。その上で谷垣は「特例公債法案は予算の裏打ちであり、これに内閣の威信と責任をかけるという態勢を民主党が取ってこなかったところに根本的な問題がある。その扱いをめぐっていろいろなことが起きてくる可能性がある」と述べたのだ。
「いろいろなこと」とは何かと言えば、この場合内閣不信任案しかないだろう。この点、自民党前政調会長・石破茂はもっと明快だ。「内閣不信任案は提出する」と、1日のTBSで断言したのだ。石破の不信任案上程の根拠は、マニフェストは破たんしたうえに、マニフェストにない消費増税法案を成立させたのだから、国民の信を問うのは当然だというものであり、確かにもっともな内容である。その論理的な支柱の上に立ってどう動くかと言えば、「特例公債法案」の“人質化”であろう。予算は通ったが、特例公債法案が通らなければ、財政上の裏打ちが出来ない。野田に解散かどうかを迫るには十分な武器となる。参院審議を展望すれば、まず消費税法案は順調に成立への運びとなりそうである。また選挙制度改革法案も与野党が一致を見ることが困難な定員大幅削減の部分を残して、違憲状態解消の「0増5減」だけを実現させる流れだろう。そこで残った赤字国債法案が、自民党にとって解散・総選挙への最後の切り札となる可能性が大きいのだ。その場合8月上旬、遅くとも中旬までには消費増税法案が成立するだろうから、その直後に赤字国債法案をめぐって、食うか食われるかの攻防段階に突入することになろう。「話し会い解散」に野田が応じなければ、内閣不信任案の上程、もしくは参院での問責決議案の可決など大波が待ち構えている。小沢の虎口を脱した野田は、オオカミの群れに取り囲まれる形となるだろう。
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