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2012-06-26 00:00
(連載)事故調乱立は民主主義の証(2)
鈴木 一人
北海道大学大学院法学研究科教授
また東電事故調は、サイトのデータや事故時の福島第一原発と本店の間のやり取りなどを知る唯一の存在であり、そうした立場から徹底した資料の提出と事故の経緯の解明をすることが将来の原子力事故を防ぐための教訓となるため、そうした資料の提出と将来につながる報告書を書くことが目的であるべきである。しかし、21日発表された東電事故調の報告書を見る限り、東電の自己保身、言い訳、自己正当化の部分が目立った。もちろんサイトで起こったことの分析やデータの提供もなされているが、どうしても報告書全体が自己保身を目的としているようなバイアスがかかっており、将来的に教訓を残そうという意を強く感じない報告書に見える。
こうなってしまったのは、それぞれの事故調が本来の目的を見失い、社会的に注目を浴びる論点に意識を強く持ってしまった結果として考えることが出来、その意味では民間事故調も含めて、事故調が複数存在し、本来拡散されるべき論点が、収斂してしまったことに問題があるとは言える。しかし、それは複数の事故調が乱立していることが問題なのではなく、それぞれの事故調が自らの目的とミッションを明確に定義せず、調査・検証の軸が固まりきっていなかったこと、そしてメディアを含め、社会的関心が官邸の介入などに集中してしまったことが原因と考えられる。
まだ国会事故調の中間・最終報告、政府事故調の最終報告は出ていないが、民間事故調、東電事故調、政府事故調の中間報告を見る限り、それぞれが広範な論点に言及し、それぞれの立場から有益な分析をしていると思う。これらの報告書の中には将来の原子力のあり方に向けての示唆が多数含まれており、それらをうまく活かしながら新たな規制機関や法制度の整備をしていけば、今回の事故の教訓を踏まえた危機管理の仕組みができていくことは期待できる。しかし、政府事故調も国会事故調も最終報告を出さないまま、原子力規制委員会、規制庁の設立を決める法案は国会を通ってしまい、そうした知見を活かした法制度整備や安全規制整備になっているとは言い難い状況になってしまった。様々なことが後手に回り、夏が来る前に電力不足を解消しようと焦る政府は、早急に原発再稼働を進めようとした結果、過去の教訓が活かされた体制作りができなかったことは大変残念である。
すでに述べたように、複数の事故調が「乱立」し、それぞれの立場や目的から様々な提言を行うことは民主主義国家ならではの出来事である。「真実は一つ」ではなく、様々な角度から見える「複数の真実」を突き合わせ、政府や国民は複数ある分析や解釈の中で何を選び取っていくのか、ということこそ、民主主義的な営みなのである。それを強権的に一つの事故調、一つの分析による、「かりそめの一つの真実」にまとめてしまうことは、原子力ムラの介入や政治的な介入によって「真実」が捻じ曲げられてしまう危険すら伴う。であるがゆえに「事故調乱立」は民主主義の証であり、それを否定するどころか、事故調が乱立していることを歓迎し、その中で、政府や国民が「何が真実か」を自ら掴み取っていくことが民主主義の成熟にとって重要なのである。(おわり)
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