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2012-06-06 00:00
「強いアメリカ」の悲鳴
高畑 昭男
ジャーナリスト
最近、アメリカの悲鳴がひんぴんと聞こえてくるようになった。昨年夏、世界を揺るがせた米債務危機の際に成立した予算管理法の歳出自動削減条項(セクエストレーション)のために、米国防予算が急速に縮小されつつあるからだ。オバマ政権は今後10年間で総額4870億ドル(約39兆円)にのぼる国防費削減を打ち出した。それでも、政府と議会が来年1月までに新たな手を打たないと、さらに5千億ドルもの追加削減を迫られかねないというから事態は深刻だ。5月22日、東京の笹川平和財団で行われた米ブルッキングス研究所の公開セミナーでも、この削減問題が大きなテーマになった。米国の国防費は昨年度に年7千億ドル超のピークに達したが、「今後は毎年1割前後のペースで削られる。このままでは、数年のうちに4千億ドル台にしぼみかねない」(米側報告者)といった悲痛な声が目立った。
米国は昨年秋、オバマ政権の下で軍事・外交戦略の焦点をアジア太平洋に本格シフトさせたばかりだ。米側出席者の1人は「戦略転換を言いながら、国防費の削減を放置するのはひどい矛盾だ」とも語っていた。米国の政治状況も決して芳しくはない。共和党が多数派を占める下院と、民主党が支配する上院との間の日本のような「ねじれ」に加え、伝統的に「国防重視」だったはずの共和党内でも、対外関与の縮小を叫ぶ孤立主義的傾向が広がりつつある。その結果として、「強いアメリカ」と、その卓越した指導力を支える国防の充実について、二大政党の誰も支えようとしない国防予算の「みなし子化」現象が起きているという。削減計画の主体は欧州地域を中心としているとはいうものの、米軍全体で陸軍、海兵隊が計10万人近く削られる。また海軍でも、「退役艦船の数に新たな建艦数が追いつかない状態だ」と指摘する人もいた。
中・長期的にアジア太平洋についても国防費削減の影響が及ぶことは避けられないだろう。兵員・装備の削減と低下だけでなく、演習や訓練の不足などによる即応態勢の劣化が心配される。「力の空白が生じ、外交面でも影響が出る」との声が相次いだ。問題は、こうした情勢が日本にとっても対岸の火事ではないということだろう。尖閣諸島問題も含め、強引な海洋進出を続ける中国が空白につけ込むようになれば、日米同盟の抑止力の実効性にかかわる重大な事態と言わざるを得ない。国防費削減の行く末を心配する人はほかにもいる。共和党のジョン・カイル上院院内幹事(70)は先日、保守系シンクタンクのヘリテージ財団で講演し、「米国は世界から撤退してはならない」と呼びかけた。
米国の11月の選挙では、次期大統領の行方に目を奪われがちだが、連邦議会で世代交代などを理由に勇退するベテラン議員も少なくない。カイル議員もその1人だ。米国はかつて二度の世界大戦や朝鮮戦争などで早期介入をためらったために、後にかえって大きな犠牲や損失を招いた。そうした「歴史の大切な教訓を忘れるな」と繰り返し強調したという。カイル議員の呼びかけを知ったのは、昨年夏から同財団の客員上級研究員を務め、日本に関連する政治情報をワシントンから発信し続けている横江公美さんの電子ニュースレターのおかげでもある。日米安保体制発足60年を過ぎ、両国で世代交代が進む中で、日米が協力して地域の平和と安定を築いてきた歴史と教訓を風化させないようにしたい。とりわけ米国がこれだけの規模と長期の国防費削減を迫られるのはかつてないことだろう。日本の財政も苦しいが、同盟の維持強化のために日本がもっと行動する番だと思う。
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