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2012-06-05 00:00
野田は陣頭指揮で「輿石クーデター」を阻止せよ
杉浦 正章
政治評論家
内閣改造で民間人を起用しようが、しまいが、当面の政局とは関わりがない。最大の問題は、幹事長・輿石東を留任させたことだ。首相・野田佳彦は輿石性善説に立っているのだろう。しかし、田中角栄ならこういうときは「ハブを懐に入れた」と表現する。終盤国会の様相は「輿石政局」の側面を色濃くしている。野田は会期末までの消費増税法案の衆院通過にまい進する方針だが、6月18日から3日間はG20で政局の舞台から消える。来週15日までにすべての決着が不可欠だが、こじれた場合には会期末が超重要な駆け引きの場となる。よく東南アジアでは首相外遊中にクーデターが発生するが、「輿石クーデター」を避けるためには、G20などにのこのこと出席しているときではない。家が火事で大団扇であおぐ者がいる時に、地球の裏側まで出かける者はいない。外相・玄葉光一郎を代理出席させれば十分だ。そして野田は、自ら自民党との協議に臨むべきだ。今回の改造人事の焦点は、名前を覚えるまでに代わってしまう閣僚人事などではない。輿石を更迭させるかどうかが永田町の最大の関心事であった。首相周辺では幹事長に藤井裕久、幹事長代行に仙谷由人起用で万全の態勢を整えるべきだ、との声が強かった。野田も一時は乗りかけたといわれるが、6月1日の輿石との会談で輿石が“従順姿勢”を見せたため、踏み切れなかったのが実情だ。
こうして最大の危機的場面で元代表・小沢一郎の“代貸し”輿石がポストにとどまってしまった。野田がフルに信用しているかと言えば、いないだろう。野党ですらそうだ。自民党幹事長・石原伸晃も「輿石氏は信用出来ない」と漏らしているという。自民党にとって最大の問題点は、輿石が小沢の意向を反映して“解散ストッパー”であることだ。また自民党との消費増税法案修正協議に入るに当たって、腰石が野田の意を体して動くかどうかと言うと、「怪しい」の一言に尽きるのだ。しかし、問責2閣僚の更迭は、のどに刺さったとげを抜いた形になったことは確かだ。自民党は与野党協議入りの条件として、採決時期の明示と中央公聴会の日程明示を求めている。理由はといえば、やはり輿石が信用ならないからである。自民党は「輿石氏が法案の継続審議を狙っている」という相当確度の高い情報を握っているといわれる。だから、法案成立に本気で取り組む“踏み絵”として、日程提示を求めているのだ。輿石は「協議に入らないまま日程提示はできない」と拒否しているが、衆院可決については、野田が「会期内21日まで」と明言しており、自民党はこれ以上求めるべきではあるまい。公聴会も特別委員会で決めればいいことだ。
したがって自民党は、いずれにしても民主党との協議に入らざるを得ないだろう。これ以上問題をこじらせれば、世論の総反発を受けることは必至だ。民主党と自民党の意見の隔たりは、政策と政局の両面で存在する。政策は最低所得保障年金制度の撤廃と後期高齢者医療制度廃止の撤廃だ。民主党マニフェストの最後の根幹だが、野田が消費増税法案を取るか、両制度を取るか、と言えば、明白だ。消費税を取る。自民党が提示している「国民会議」で時間をかけて協議する方向しかあるまい。問題は政局だ。自民党が求めているのは「話し合い解散」と「小沢切り」だ。政策をクリアすれば、当然これが出てくるが、問題は与野党協議に任せられる問題ではない。野田と自民党総裁・谷垣禎一が党首会談で処理すべき問題だろう。野田は、輿石が怪しげな動きを見せ続けるなら、幹事長を飛び越して、谷垣と直接交渉をするしかないのだ。記者会見での「党首間の会談は、どこかの段階では必ずやらなければならないと思う」という口ぶりから見て、この流れは不可欠だろう。もう秘密会談は無理だから、正式にトップ会談を何度でも開けばよい。党首レベルの与野党協議で“輿石政局”を退けるしかない。
こうしてぎりぎりの段階に消費税政局は突入するが、野田が解散権と人事権を握っていることが最大のポイントだ。これによって輿石の“造反”にも限界が生ずるからだ。なぜかと言えば、野田は、輿石が邪魔をして消費増税法案が衆院通過をできない事態となれば、間違いなく解散に踏み切る。野田が4日「日々全身全霊を傾けて、大事な決断をしたい」と記者会見で表明したのは、紛れもなく退路を断ったことを意味する。今国会で衆院通過を図れないなら、内閣不信任案の成立と同等の政治的判断をするだろう。その場合内閣総辞職ではなく、国民の信を問う解散だ。参院で不成立となっても同様だ。これは輿石にとって小沢の解散回避の“至上命令”を達成できなくなることを意味する。野田はエネルギーを野党と党内野党に半々で使わなければならない事態に直面していることになる。局面によっては、遅ればせながら「輿石切り」に踏み切るのもやむを得まい。幹事長交代など30分あればできる。したがってよほど状況が好転して、15日までに衆院通過のめどが付き、会期延長でも合意しない限り、政権は断崖絶壁だ。G20などに出席すべきではない。
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