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2012-05-10 00:00
控訴は古希の小沢に戦略崩壊の直撃
杉浦 正章
政治評論家
不死鳥の如く返り咲くかに見えた民主党元代表・小沢一郎であったが、舞台は暗転、奈落の底へと落ちかかっている。党員資格停止処分解除という判断をした首相・野田佳彦と幹事長・輿石東は、そろってまれに見る誤判断をしたことになる。野田には内閣支持率低下だけがその“ご褒美”として残るだろう。指定弁護士の控訴は、5月24日で70歳の古希を迎える小沢にとって、またとない誕生日プレゼントとなった。ひそかに党員獲得など代表選の準備に着手していた小沢は、出馬どころか、グループ崩壊の危機に直面したのだ。輿石の判断の背景について、政界の一部には「控訴を予想して、その前に党員資格を回復しようとした」という見方がある。しかし、控訴後の反応を見れば、その逆だ。小沢自身が「理解に苦しむ」と反発、盟友鳩山由紀夫が「想定外」と述べているように、弁護士を含めて「控訴は出来ない」という判断が支配的であった。その証拠に、小沢は自分の事務所に代表選での一般党員の支持獲得に動くよう指示している。事務所は党員の資料を集めるなど準備を開始していたのだ。輿石は、控訴できまいと楽観視して、資格停止解除をしたのだ。
輿石に丸投げしてしまった野田も、同様の判断であったのだろう。野田と首相官邸の情報不足と判断力の欠如は、民主党政権樹立以来の3年間全く変わっていない事の証明でもある。民主党政権はもうダメだとさじを投げたくなるのだ。指定弁護士の3人は控訴を挙手で決めたと言うが、その根拠は何か。弁護士らは「共謀がなかったとする1審判決には重要な事実誤認がある」と述べただけで、明確にしていない。専門家の間では、1審判決の“核心部分”である「小沢の共謀したとことへの“認識”が立証されていない」という指摘に無理があり、指定弁護士はこのポイントで覆すことが可能と判断したとの見方が強い。それにしても東京地検が2度にわたって起訴を断念し、1審で無罪となった事件を控訴しても、厳しく立証を求められることは確かだ。指定弁護士側には、判決後強制起訴した検察審議会の在り方にまで議論が及んでいることや、また世論の判決批判の強さも考慮した、「政治控訴」の側面があることも否めまい。
指定弁護士の思惑がどうあれ、小沢に突きつけられた現実は、「天網恢恢(かいかい)疎にして漏らさず」そのものだ。天罰を逃れることはしょせんできないのである。政治的には野田・小沢・自民党総裁・谷垣禎一の政局トライアングルの一角が崩れ始めた事を意味する。小沢の勢いが萎(な)えるのだ。「代表選出馬」でチルドレンらの気を引き、グループを束ねる作戦が、もろくも崩壊するのだ。いくら民主党でも刑事被告人が次期首相になり得る党代表選に出馬することは認めないだろう。したがって、解散がないまま代表選となれば、野田の続投は確定する。解散があれば民主党は大敗するから、野田の首相としての地位も、代表としての地位も危うくなる。小沢が萎えるということは、グループの求心力が遠心力に変わるということだ。消費税反対でグループ内全部をまとめることは難しいだろう。さすがの半可通のチルドレンも、有権者から「疑惑の小沢派」と受け取られては、選挙にならないことくらいは理解できるだろう。しかし野党が反対した場合、衆院議員56人の造反で否決できるから、それくらいの力は残す可能性もある。
一方で、野田の「小沢切り」は、やりやすくなってくるだろう。小沢の党員資格回復で全国紙の社説が期せずして一致した点は「消費税に反対するなら離党せよ」である。もともと水と油だ。小沢とその一派を野田が切れば、世論は歓迎、自民党は消費増税法案に賛成する流れであり、野田にとってはプラスに作用する要因だ。したがって、小沢は、消費税に真っ向から反対して激突、解散・総選挙のコースを避けるためにも、消費税での方針の転換を迫られていることに変わりはない。また小沢は、大阪市長・橋下徹ににじり寄ろうとしているが、橋下も刑事被告人から秋波を送られても困るだろう。小沢も、橋下人気を活用してチルドレンを生かそうとしても、しょせんは悪あがきにすぎないのだ。ここは野田が、小沢グループと、露骨にも小沢べったりの正体をあらわにした輿石に対して、リーダーシップを発揮して押さえ込みにかかるべき局面だろう。国家の将来を考えるなら党内融和などより消費増税法案を取るべきだ。それなくして袋小路脱出はあり得ない。小沢も、福田赳夫のように72歳で首相になった例がないわけではないが、福田は刑事被告人ではなかった。どっちみちここ2~3年は裁判で身動きが取れまい。そろそろここらで観念して、年相応に好きな釣りでもして暮らしたらどうか。
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