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2012-04-28 00:00
高額買取は、FITの趣旨に合わない
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
今年の7月から、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が始まる。これは、再生可能エネルギーによって発電された電力の全量を、発電方式に応じて予め決められた価格によって、電力会社に強制的に買い取らせる制度である。これによる負担を、電力会社は電力料金に転嫁することができる。FITの制度趣旨は、コストが高い再生可能エネルギーによる発電に対して、固定価格による買い取りという形の補助金を与え、再生可能エネルギーによる電力(RES電力)の競争力を高め、その比率を高めることに繋げるというものである。買い取り価格は、技術の進歩と、再生可能エネルギーの規模拡大による「規模の経済」によるコスト下落に伴って、漸減させていく。
FITは、あくまでも再生可能エネルギー導入の後押しとして、控え目な買い取り価格を設定し、再生可能エネルギーの割合を長期的に増大させるという制度設計をするのが常識である。高い買い取り価格を設定すれば急速な増大につながる、などということは全くあり得ず、そういうことをすれば、逆に、補助金による経済的歪みによる弊害ばかりが発生し、制度はサステイナブルでなくなり、結局、目的の達成にもつながらない。経産省の調達価格等算定委員会が25日にまとめた、RES電力の電力会社による買い取り価格の委員長案は、RES電力発電業界の要望に対して、満額またはそれを上回るような高額の買い取り価格を示した。新聞の見出しを賑わしたのは、風力発電の42円/kWhだが、風力が22~25円の要望に対して23.1円、マイクロ水力が50~55円の要望に対して57.75円、地熱が25.8円に対して27.3円、バイオマスが14.5~39円の要望に対して13.65~40.95円などとなっている。政府が昨年12月にまとめた試算では、発電コストは大規模太陽光が30.1~45.8円/kWh、陸上風力が同9.9~17.3円などとなっている。
上記の中で、問題視すべきは、やはり太陽光である。FITの趣旨から言って、買い取り価格は、コストが低下してきている技術に対しては低めに設定しなければならない。太陽光発電は、中国製の安価なソーラーパネル等の部品が出回り、発電コストは低減しているのだから、高い買い取り価格を設定するのは全く適切ではない。中国製の安価な太陽光発電部品は、FIT先進国というべきドイツの太陽光電力の固定価格買い取り制度を成り立たなくさせ、ドイツは買い取り価格の大幅切り下げを余儀なくされた。また、米国は、中国の安価な太陽光発電部品はダンピングであると主張して、貿易摩擦に発展する気配を見せている。また、高すぎる買い取り価格の設定が、一種のバブルを発生させ、経済的混乱をもたらすことは、2008年のスペインの「太陽光バブル」崩壊が如実に示している。調達価格等算定委員会は、こうした海外の事例によく学んで買い取り価格案を決めたのか、また、なぜ太陽光偏重を改めないのか、疑問に思う。
高額の買い取り価格は、早々に制度を破綻させ、結局、再生可能エネルギーの拡大にもつながらない。一部の業者に目先の利益を与えるだけである。家計の負担は月に150円程度ではないかとされているが、過小評価のように思われる。もしも、我が国のエネルギー安定供給に資するのであれば、ある程度の負担を国民が分かち合うことは決して不合理ではない。しかし、一部の業者に目先の利益を与えるだけの制度であれば、負担増加の多寡に関わらず全く筋が通らない。大規模事業者にとっては、少しの電力料金値上げでも深刻な影響を受け、産業の空洞化が急加速することになる。また、現在のところ、RES電力は不安定であり、精密産業に必要とされる良質な電力の供給源とはなり得ない。単に価格だけの問題ではなく、蓄電池やスマートグリッドといった技術と併せて総合的に制度設計がなされなければならない。もちろん、調達価格算定委員会にそこまで求めるのは酷であり、これは政府が適切な方針を示していないのが最も責められるべき点である。しかし、そうはいっても、このたびの調達価格等算定委員会の案は、FIT制度の趣旨に合致しておらず、日本経済に混乱を引き起こすばかりであろう。再考を強く促したい。
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