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2012-04-09 00:00
(連載)坂本竜馬の「船中八策」にみる国際通貨政策(2)
山下 英次
大阪市立大学名誉教授
今回の円高は、3・11大震災直後から始まった。また、その前の円ドルに対する史上最高値は、1995年4月19日、すなわち、阪神大震災のおよそ3か月後であった。国家的災厄に遭った直後の国の通貨がなぜ史上最高値に達しなければならないのだろうか?このように、変動相場制下においては、為替レートは説明のつかない方向に動くことがある。また、それよりもはるかに重要なことは、国際収支(経常収支)の調整効果ないことである。そうだとしたら、為替レートの変更にいったいどのような調整効果を期待するのであろうか?
各国間の生産性格差を調整すべきだと考えている人がかなり多いようであるが、そもそも生産性の格差などという極めて厳粛な問題を、為替レートという水際の手段で、一瞬にして安易に調整すべきではない。それは、経営努力によって、生産を高めることに成功した企業が勝利し、それに失敗した企業が敗北するという資本主義のゲームのルールを真っ向から否定することになってしまう。日本企業が変動相場制の最大の被害者であることは間違いないわけであり、わが国経済界は、水際で企業の損益分岐点が一瞬にして大きく変動してしまうこの非合理かつ理不尽なシステム、すなわち変動相場制に強い異議を申し立てるべきである。
国際経済システムを、所与でありなおかつ絶対のものと考える必要は全くない。いまや、われわれ日本やアジアがどのような世界システムを望むのか、という観点からわれわれ自身が主体的にグランド・デザインを構想すべきである。アングロ・サクソン的な市場万能論に対する疑問が非常に高まっているわけであり、今後は、日本やドイツの経済モデルが見直されることになろう。また、われわれとしては、そのように国際社会に積極的に働きかけていくべきである。結論だけを言うとすれば、世界経済システムは、本来、債権国のロジックに沿って作られるべきである。わが国は、1991年からすでに20年以上にわたって世界最大の純債権国であり続けているわけであり、われわれ日本人が合理的と考える世界経済システムが、国際社会全体にとっても最も合理的なシステムと考えて良いのである。
他方、ドイツ・マルクの対ドルでの史上最高値は、1995年4月19日の$1=1.362マルクであったが、もし仮に、ドイツがまだマルクを持っていたとしたら、おそらくドルと等価もしくはそれ以上の価値になっていることであろう。ドイツは、域内通貨同盟のおかげで、高くなり過ぎない通貨を持つことに成功しているのである。それが、強い通貨国とっての域内通貨同盟の意味に他ならない。わが国は、そのことも、大いに教訓としなければならないのである。(おわり)
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