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2012-03-28 00:00
我が国の「脱原発」は国際核セキュリティ体制を損なう
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
3月26~27日に、ソウルにおいて、第2回核セキュリティサミットが開催された。国内の論調は、あたかも北朝鮮とイランの核開発ばかりが取り上げられたかのように報じていたが、核セキュリティサミットの最大の議題は、核物質の不拡散防止、とりわけ核テロの阻止である。今回出された共同声明も、核物質を使ったテロは、国際社会にとって最大の脅威の一つであり続けている、と指摘している。核セキュリティと原子力の平和利用は、一体不可分の問題である。このことを端的に示す概念として「3S」というものがある。すなわち、原子力の平和利用は、核拡散を防ぐIAEAの保障措置(Safeguards)、原子力安全(Safety)核セキュリティ(Security)に立脚しなければならないということである。逆に、核セキュリティに関する国際管理体制の構築を考える際には、軍事面のみに注目していても全く不十分で、原子力の平和利用がカギとなる。
原発大国である我が国は、こうした重要な側面を認識した上で原発政策に取り組まなければならない。そもそも、我が国自身が、2008年の北海道洞爺湖サミットにおいて「3Sに立脚した原子力エネルギー基盤整備に関する国際イニシアティブ」なるものを提唱した経緯がある。今回出された共同声明では、福島の原発事故を踏まえ原発の安全に向けた持続的な努力が必要、高濃縮ウランの使用を最小限にする、輸送における核・放射性物質の安全向上、出所を特定する核鑑識能力の開発、核物質の不正取引を防止する能力構築、核施設のサイバーセキュリティー強化、といった諸点が指摘された。いちいちもっともである。とはいえ、総花的に課題を羅列しただけで、具体的な対策となると、各国の足並みは乱れたままであり、忍耐強い取り組みが必要である。
ところで、一見、「脱原発」をすれば、核物質をテロリストに盗まれることもなくなり安全性が高まるように思えるかもしれないが、それは、とんでもない誤解である。仮に「脱原発」が実現したとしても、高濃度の核廃棄物は残ったままであり、それを管理しなければならないことに変わりはない。「脱原発」により原子力関連の人的・技術資産が廃れるようなことがあれば、そうした能力にも支障をきたすことになり、我が国が、核セキュリティのループホールになりかねない。背信的であると言っては言いすぎであろうか。我が国の原子力技術は、依然として世界中の高い信頼を勝ち得ている。そして、我が国は、核兵器非保有国の中で、唯一フルスペックの核燃料サイクルが認められている国である。諸外国からは、「潜在的核保有国」と看做されているといって過言ではない。国際的核セキュリティ体制の構築を主導する極めて高い能力と責任がある。
これは、我が国の国際社会における発言力の大いなる源泉である。もちろん、国際的核セキュリティ体制の構築は、我が国の国益にかなう。原発の放棄・縮減を目指すということは、国際的核セキュリティ体制の構築の梃子になる高価値なものを捨て去るということであり、日本にとっても国際社会にとっても大きな損失である。我が国は、今回の核セキュリティサミットにおいて、先頭に立って議論を主導できる立場にあったが、到底そのように振る舞ったようには見えない。確かに、野田首相は、福島第1原子力発電所の事故を教訓に原発の安全とテロ対策強化をする、と言ったが、力強いメッセージを発信することができたかは疑問である。なんと勿体ないことをしたことかと、残念に思う。
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