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2012-03-15 00:00
「3・11」1周年に経済紙の恐るべき無知
田村 秀男
ジャーナリスト
3月11日付けの日本経済新聞朝刊1面をみて、驚いた。経済専門新聞が、経済についてあまりにも幼稚な誤解に基づく記事を東日本大震災から1年の日の1面に載せるのは、日本経済の低迷を象徴している。かの記事ポイントは以下の通り。1.東日本大震災後、「お金の性格は違うが、合わせて約65兆円をつぎ込み、日本経済は底割れを免れた」と政府、日銀の政策を評価している。2.内訳は、4次におよぶ11年度補正予算20.6兆円、日銀による国債買い入れなど30兆円の「基金」枠拡大、外国為替市場での円売り介入14.3兆円で、合計約65兆円。
いくら経済に疎くても、眉に唾し、数字が過大と思う読者も多いだろう。少し詳しい読者なら、補正予算はまだしも、日銀の国債買い入れや外為介入と財政支出と経済効果の点で同一視してよいのか、と疑問を持たれるだろう。詳しく説明すると、日銀の「基金」なるもの自体は言わば見せ金で、復興とは直接関係ない。関係するのは、日銀によるお札の刷り増し、つまり量的緩和である。昨年2月以降1年間で、日銀が国債など金融資産買い入れで増やした日銀資産は14.1兆円に過ぎない。つまり30兆円はあくまでも枠でしかない。
第2に、政府による円売り介入は、基本的に国内で民間貯蓄を吸収してドルを買う操作であり、民間資金を米国債に置き換える。財政面では政府の債務を増やした分だけ外貨資産が増える。景気に影響があるとすれば、円安になった場合だけである。実際には一時的に円高が止まっても、数日後以降は円高基調にもどる。つまり何の意味もなかった。従って、復興にとって差し当たり復興効果の対象にすべきカネは補正予算だけであり、問題にすべきはその中身と執行のやり方なのである。
日銀資金の場合は、デフレから脱出するために欠かせない。その点で評価すべきである。見せ金30兆円自体に大した意味はない。明確なインフレ目標と、その達成のための量的緩和政策が必要である。残存期間の短い国債だけ買いまして、いつでも市場から資金を引き揚げる逃げ腰の日銀は、極めて弱々しい、「1%インフレの目安」しか打ち出せない。筆者は長く日経に在籍し、日経の経済記事の重大性を自覚している。それだけに、粗雑な記事を目にすると、一体どうなっているのだ、と思う次第。
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