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2012-03-13 00:00
震災対策は、日本国内での風評除去が先決
高峰 康修
日本国際フォーラム 客員主任研究員
3.11以降、我が国では、ほとんどあらゆるものが3.11を中心に回るようになってしまった。外交政策もその例外ではない。例えば、震災復興のために財源を確保すべきであることは当然だが、それを理由に政府開発援助(ODA)の減額を求めるのは、一見もっともらしいが筋が通らない。一つには、全く別の次元のものの二社択一を迫っている点である。もう一つには、ODAを減額しても、震災復興費用の捻出には寄与するところが極めて小さい点である。ODAを減額して得られる額と、ODAが持つ我が国の外交ツールとしての重要性を比較衡量すれば、明らかにマイナスである。震災復興費用は15兆~20兆円規模になる。昨年、震災発生後には、ODAを2割削減せよという議論が出ていた。我が国のODA実績は、2010年度の支出純額ベースで見ると、約110億ドル(約9700億円)であり、その2割は、2000億円弱である。仮に復興費用捻出のために10年間そのような減額を続けたとしても、2兆円を得られるに過ぎない。その一方で、我が国が内向きであるという印象を与え続けることになり、大きな損失である。
外務省が9日に発表した2011年版のODA白書は、次のように指摘している。すなわち、東日本大震災で発展途上国を含む163カ国・地域が日本への支援を表明したのは、これまでのODA実績を通じて諸外国との絆が強まった結果である。日本が信頼される国であるためには貧困に悩む途上国への援助が重要であり、震災復興をODAより優先するべきとは言えない。本来、ODAと震災復興は結びつけるべきものではないのだから、ODA白書の記述は視野がいささか狭い面はあるのだが、そうしなければ予算がつかないので、仕方がないのであろう。ODA白書は、被災地で調達した産品を途上国支援に積極的に使用することを打ち出している。具体的には、東北地方太平洋沿岸で捕れた水産物の缶詰などが想定されている。このこと自体は、なかなか工夫された策であると評価するにやぶさかではない。
しかし、一つ重大な問題がある。それは、我が国において、東北地方の産品に対して、福島第一原発事故に伴う放射性物質による汚染の風評が著しく高まっている点である。産品ではないが、極端な例としては、2月下旬に、青森県から沖縄の那覇市に子供向けの雪遊びイベント用の雪が運ばれた際に、本土からの避難民が放射性物質による汚染への懸念を強く訴え、結局、雪は石垣市の提案で石垣市が引き取るということがあった。我が国全体を覆う極端な風評被害を引き起こした原因の一つは、もちろん、菅前政権の情報公開に関する余りにも酷い対応であり、現政権の風評除去への取り組みも十分とは言えない。マスコミによる扇動的な報道も一因であろう。突き詰めて考えれば、国民の多くが冷静さを失っていることが根本原因である。しかし、原因が何であれ、日本人自身からいわれなき拒否反応を受けている東北地方の産品を、途上国援助に回すというのは倫理的に如何なものであろうか。却って、これまで積み上げてきた我が国の信用を落とすことにも繋がりかねない。
玄葉外相は、3月12日に行われた追悼レセプションにおいて、各国大使らを前に、各国の支援に対し改めて謝意を伝えるとともに、日本産食品への輸入規制措置の緩和を要請した。これに関しても全く同様である。日本国内で風評が高まっているのを放置しておいて、日本産食品の輸入規制緩和を要請しても、全く説得力に欠ける。余りにも都合のよい話である。謝意の表明だけにしておいたほうが賢明であったように思う。原発事故に伴う風評被害の除去は、国内政策として必須であることは言うまでもないが、そればかりでなく、対外的にも極めて重要である。
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