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2012-02-27 00:00
我が国の米国産LNG輸出要請に見る自己中心的側面
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
日本政府は、米本土産の液化天然ガス(LNG)の対日輸出許可を求めて、米国政府と交渉に入ったと報じられている。そして、今春予定されている日米首脳会談で合意する方向で調整しているとのことである。米国は、米国内で生産された天然ガスを業者が輸出する際には、エネルギー省の許可を受けることを義務付けるという、輸出規制を行っている。ただし、米国とのFTA締結国に関しては、直ちに許可がおりることになっており、事実上、規制の対象外である。日本は、米国とFTAを結んでいないから、当然、可否は厳格に判断されることになる。こういう規則になっているのは、米国内での天然ガス価格の上昇を抑制するためである。
我が国が米国にLNGの輸出を求める主たる原因は、原発の停止に伴って、火力発電用のLNGが大幅に増加しているためである。2011年のLNG消費量は、1700万トン増の5300万トンに達すると推定されている。そこで、エネルギー安全保障における常套句である「調達先の多様化」を理由に、技術発展によって天然ガスの採掘量が大きく伸びている米国に、新たな調達先としての白羽の矢を立てたのである。一般論としては、調達先の多様化は悪い話ではないし、政情不安定とはおよそ縁がなく、同盟国でもある米国からエネルギー資源を輸入することは、安定性・持続性の観点からも是認できる。しかし、今回の日本の行為には、自己中心的側面を見てとることができ、歓迎されざる行為であるともいうべきである。他国から見れば、日本には原発があり、大きな事故を起こしたとはいえ、その技術力には世界中のほとんどの国が疑問を持っていない。したがって、原発を早期に再稼働させれば済むことではないかと考えるのは自然である。
我が国が大々的に新たにLNG調達に動けば、市場価格を高騰させる要因となりうる。もちろん、米国産LNGに関していえば、米国の技術力による増産と、我が国の需要のバランスから価格が決まってくるので、必ず高騰するとは言えない。しかし、我が国のようなエネルギー消費大国が、火発を重視するというメッセージをグローバルなエネルギー市場に向かって発したことに違いはない。米国産LNGの輸入が始まるのが2016年だというから、本格的に火発に回帰すると解釈され得る。したがって、火発の燃料となる原油や天然ガスの価格を押し上げる要因となろう。これは、他国にとって迷惑な話であるとともに、結局は、我が国自身にとっても不都合である。
我が国の現在のエネルギー論議は、あまりにも一国主義的であり、ちょうど「平和憲法」を錦の御旗に一国平和主義を「謳歌」してきたのと同じ構図である。もちろん、エネルギー資源は戦略物資の中の戦略物資であり、その獲得競争を無視するのは現実を見ない議論であるが、エネルギー安全保障を達成する一つの戦術として、競合を避けることは、賢明なオプションである。当然、その逆も然りということになる。なお、本題からは少し外れるが、米国の天然ガス輸出規制から得られる、重要な示唆がある。すなわち、FTAにエネルギー安定供給に関する協定を取り入れて、エネルギー安全保障に貢献させることができるということである。これは、理屈の上では食糧に関しても同様である。両方とも、自給率向上も重要だが、FTAの枠組みを用いた安定供給も考慮に入れる価値がある。
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