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2012-02-16 00:00
「船中八策」は、総じて嘲笑、褒めるものは下心
杉浦 正章
政治評論家
この政治現象をどうとらえるかだが、しょせんは「おもしろうてやがてかなしき鵜舟かな」(芭蕉)だろう。大阪のタレント市長をマスコミ、とりわけ浅薄な民放テレビが政治ショーで盛り上げて、維新の会が国政に進出できても、竹下登ではないが「政治家1年、歌手2年の使い捨て」だ。民主党マニフェストと同じで、偽物はすぐにばれるのだ。維新チルドレンに引っかき回されて、日本の政治が民主党政権に次いでまたまた政治空白の脇道にそれないことを祈るばかりだ。市長・橋下徹の“船中八策”は、予想通り政界から総スカンの体だ。政界の反応は「総じて嘲笑、褒めるものは下心」と言う形に2分類できる。褒める方の双璧が首相・野田佳彦とみんなの党。野田はどうも橋下に、子供っぽく「うれしい」と言わせるのがうまいようだ。「シロアリにたかられないように」発言では、「めちゃくちゃ嬉しい」。こんどの「問題提起は良いことだ」のよいしょには「めちゃくちゃ」はつかないただの「うれしい」。野田の狙いはどこにあるかといえば、選挙対策だ。少しでも民主党の目減りを減らすには、維新の会と連携出来ればという下心だ。加えていまや“消費税マニア”と化した野田にしてみれば、「船中八策」が消費税導入であることが、これまた「めちゃくちゃ嬉しい」のだろう。
もっとなりふり構わぬのが、みんなの党だ。渡辺喜美はもう少し骨のある男かと思っていたが、年増女のような“すり寄り”方で薄気味悪い。一方で政治家として筋を通しているのが、たちあがれ日本の平沼赳夫だ。「船中八策」をいみじくも「国家観がない」と断じたのだ。「並べてあることは憲法改正事項が非常に多く、果たして本気でこんなことを考えているのか、という感想を持った」と批判した。平沼は「石原新党」で維新の会との連携を模索しているのかと思ったが、この激しさでは連携を断ち切ったとも受け取れる。まじめで信条を重要視する平沼らしい反応だ。総じて政界の反応は参院の自民党国対委員長・脇雅史が「論評に値しない。憲法を変えなければできない話もあり、とても公約になんかなるわけもない」「2年半前に民主党がとんでもないマニフェストを出して、今日まで来たが、全部できなかった。また2年半前と同じことなる」というところに尽きる。
傑作なのは、維新の会のブレーンとされてきた堺屋太一が「参院の廃止なんて、とんでもない」と批判したことだ。逆に推察すると堺屋は「船中八策」で全然相談されていないことになる。その堺屋も講師となる維新政治塾は、3月24日開講となり、月2回程度開かれるという。5月下旬までには「中間考査」で2500人の塾生から、衆院選候補を徐々に絞って、最終的には300人として、200人の当選をめざすのだという。政治塾とは名ばかりで、何のことはない総選挙向けの“ふるい”にすぎないということになる。12万円もの受講料を払って、ふるいに掛けられるためにのこのこと3000人あまりもがよく集まるものだ。
この「維新塾選挙」には大きな問題点が少なくとも3つは存在する。1つは、解散・総選挙に間に合うかということだ。5月下旬に「中間選考」で、ディベート能力や街頭演説の能力をみるという。2500人にそんなことをしていれば、もう解散されてしまっているかもしれない。少なくとも解散間近となろう。2つは、例え間に合っても、急ごしらえの未知の人間を候補に据えるいいかげんさである。国政選挙をなめているとしか言いようがない。これは橋下人気という“風”だけを頼りにしている証拠であり、おそらく選挙運動も統一が取れず、はちゃめちゃに混乱する可能性が高い。3つは、橋下が選挙に出ないことを公言していることだ。橋下人気だけが頼りの選挙で主役が出ずに“お囃子役”に徹するのでは、まさに責任回避の“敵前逃亡”ではないか。今回の衆院選挙は、消費税と並んで、普天間固定化問題が象徴する外交・安保が焦点となる。できもしない首相公選や参院の廃止でなく、憲法9条への対応や、集団的自衛権の是非など国家の直面する重要問題がなおざりにされてはなるまい。地図を見れば中学生でも気づくオーストラリアを含めた「日米豪連携」などでお茶を濁せる問題ではない。
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