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2012-02-11 00:00
(連載)特異すぎるアメリカ的価値観(1)
山下 英次
大阪市立大学名誉教授
今年のオバマ大統領の一般教書演説はアルカーイダの首領ウサーマ・ビンラーデン殺害の成果を誇らしげに謳い上げることからはじまった。しかし、この一件は、中長期的にみて、米国にとってむしろ失敗であったと評価されることになる可能性が高いのではないだろうか。当然のことながら、主権をあからさまに侵害されたパキスタン国民の反米感情が一層高まっており、パキスタンの国内政治情勢は極めて不安定になっている。昨年5月23日の本欄「抜本的なテロ政策はフェアな対中東政策」(No.1515)で指摘したように、同国が親米路線をとり続けることは難しくなっており、米国のいう「テロとの戦い」に大きな支障が生じることになろう。
また、そもそも、あのような形でのウサーマの殺害は、近代以降の国際社会では、私刑とされ、タブーとされてきたことでもある。米政府の行為は、率直に言えば、「外国の主権侵害を伴ったテレビ実況中継付きの国際的な公開リンチ」である。また、ブッシュ政権ならいかにもやりそうなことだが、オバマ政権が実行したことに、改めて米国という国の価値観の特異性・異常性を痛感させられる。2011年5月、ウサーマ殺害の直後、ニューヨークでは、それに熱狂する市民が集まり、歓声が上がった。また、オバマ大統領の支持率も、それ契機にむしろ高まった。国際社会から見ると、米国は全体として、かなりタカ派に偏った荒々しい社会なのである。
自らを省みるということを知らず、独り善がりにすぐに報復や制裁を振りかざそうとする姿勢は、現在の国際社会の価値観とはかなり大きく異なっている。ウサーマの殺害によって、世界がより安全になるなどということは決してないであろう。アメリカは、むしろ、自分たちの極めて特異な価値観を背景とした独善的な行動によって、これまで世界をより危険なものにしてしまったことに思いをいたすべきである。作戦の一部始終を現場からホワイト・ハウスに実況中継し、大統領以下主要閣僚がそれをリアル・タイムで視聴し、さらにその時、ホワイト・ハウスに居た要人の表情を、別途、撮影させ、それを世界中のメディアに配信することまでやってのけた。何という無神経、何という悪趣味であろうか?米国が、ユニヴァーサルな価値観を持っているなどというのは神話であり、彼らの価値観は、われわれ国際社会のそれとはかなり大きな隔たりがあると認識すべきである。
こうした米国的価値観の特異性は、彼らの政策判断の失敗を招く最大の要因でもある。中南米は、かつて「米国の裏庭」と呼ばれていたが、いまはそんなことをいう人はいない。現在、南米で、真の意味の親米政権は、コロンビアぐらいのものであり、その他は、程度の差こそあれ、すべて反米的な政権である。彼らは、基本的に米国の中南米政策を拒絶したのである。9・11テロは、米国の極めてアンフェアな中東政策が根因であるが、それを全く反省することなく、米国は、アフガニスタンとイラクに侵攻した。アメリカがアンフェアな中東政策を採らざるを得ないのは、極めて特異な米国内の事情に基づくものである。(つづく)
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