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2012-02-06 00:00
(連載)北方領土における「共同経済活動」について (1)
袴田 茂樹
青山学院大学教授
北方領土問題に関連して、「共同経済活動」をどのように考えるかという重大な問題がある。この問題は、ロシア側からプリマコフ元外相・首相が、1990年代から一貫して主張してきた問題だ。1998年のモスクワでの日露首脳会談では両国の法的立場を害さないという条件のもとに共同経済活動に関する委員会も設けられた。その後も、ロシア側は様々な機会に共同経済活動を提案してきている。一方、日本側も昨年2月に前原外相(当時)が訪露してラブロフ外相と外相会談を行ったとき、やはり両国の法的立場を害さないという条件のもとに「共同経済活動」を提案した。玄葉外相も1月14日に北方領土を会場から視察した後、現地で共同経済活動に言及しロシア側は注目した。
1月28日にはラブロフ外相が訪日したが、それに先だって、1月18日のモスクワでの記者会見でラブロフは「4島に対するロシアの主権に疑いはなく、国連憲章でも認められている」との強硬発言と共に、水産加工、漁業、地熱エネルギー、観光などの面での共同経済活動を提案した。しかし彼ははっきりと「ロシアの法的枠組みの中で」と念を押している。根室市にとっては北方領土との経済交流によって、沈下している地域経済を発展させることは悲願である。長谷川根室市長は昨年12月に「戦略的な北方四島交流事業の実現」提言書案を根室管内4町に示した。市長は「ビザなし交流事業の抜本的な見直しによる戦略的な北方四島交流事業の実現とめざしており、1月14日の玄葉外相と会談したときには外相は経済交流における法的立場を害さない原則などに触れつつも、元島民の想いや現地の実情に理解を示された」と述べている。筆者も昨年市長と個別に会談しているので、根室の悲願はよく解る。また市長が日本の「法的地位を害さない」という原則ゆえに、経済交流問題がきわめて困難だということを理解していることも解った。
北海道の一部マスコミは、「根室市がまとめた戦略的な北方四島交流事業の提言は、返還運動関係者からは返還交渉打開の糸口になると評価の声が上がるが、実現するかどうかは主権問題から経済交流に一貫して慎重な外務省が鍵を握っている」と報じている。「根室市や多くの北海道住民の悲願、さらには平均年齢が70歳を超える元住民のことを考えると、日本外務省の官僚が、国民の日常生活にはほとんど何の関係もない主権だのというタテマエやメンツにこだわって、ロシア側も前向きに提案している共同経済活動や経済交流を拒否し続けるのは、余りにも冷血であり、硬直した役人の発想ではないか」との批判が強い。つまり、国政というものは、タテマエよりもまず国民の生活が第1であり、政府や外務省はもう少し血の通った発想で柔軟かつ創造的に問題に対応すべきではないか、という批判には、わが国の多くの人も同感するのではなかろうか。
結局問題は、「国家の主権」をどう考えるか、という問題に帰着する。単なる形式なタテマエやメンツの問題なのか、あるいはそれを超えた何か重大な意味があるのか、ということでもある。換言すると、北方領土問題では元島民、漁業関係者、地域経済の問題をより重視すべきなのか、あるいは何よりもまず「国家主権の侵害」の問題ととらえて、主権問題では毅然とした態度を貫くべきか、という問題でもある。実は、国際政治学においても、国民国家とか領土、国境などという問題をめぐって、近年真剣な議論がされてきた。英国のロバート・クーパーの『国家の崩壊』(2003年)という本が有名だが、彼は欧州統合をきわめて高く評価し、今日のグローバル化の時代には国家主権とか国境、国家間の対立などは20世紀までの近代(モダン)における時代遅れの考えで、21世紀の近代後(ポストモダン)の世紀においてはもはや重要ではない、と主張した。(つづく)
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