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2011-12-20 00:00
「岩田50兆円案」を葬るな
田村 秀男
ジャーナリスト
2011年は増税に明け暮れた、日本歴史上、極めて奇々怪々な年となった。菅直人前政権が消費税増税の準備にとりかかっていたときに東日本大震災に見舞われると、菅氏は復興計画そっちのけで復興増税を持ち出した。それをそっくり引き継いだ野田佳彦首相は、年内の消費税率引き上げ案総仕上げで頭がいっぱいだ。何でも増税で済ませようとするなら、税の手練手管にたけた財務省に丸投げするしかない。だが、今の財務官僚主流派はそもそも、税の自然増収をもたらす経済成長は増税の邪魔になると考えているらしく、成長戦略などそっちのけだ。日銀はそんな財務官僚に歩調を合わせ、脱デフレ・超円高是正策をとろうとしない。
閉塞(へいそく)状況をどう打破するか。要は、増税至上主義に凝り固まった政官メディアをときほぐし、官にからめとられた政とメディアを正常な政策意識に回帰させることだ。そんなときに、おやっと思わせる「妙案」が明るみに出た。日本経済研究センター理事長の岩田一政氏が、円高是正に向けて日銀が50兆円規模の外債を購入する「金融危機予防基金」の創設を政府の国家戦略会議で提案した。日銀が50兆円のお札を刷って欧州債などを購入して、欧州危機対策に協力せよというのだが、なるほど、これなら量的緩和によって脱デフレと超円高是正効果とが見込める。
岩田氏は日銀官僚が仕切る日銀の副総裁、財務官僚が牛耳る内閣府のチーフ・エコノミストを歴任した。そんな「インサイダー」が財務省・日銀が忌避する案を提示したのだから、案の定、財務、日銀双方から猛烈な反対を受けている。が、葬り去られる理由はまったくない。日銀はリーマン・ショック後、今年11月までに資金発行残高の約33%、30兆円しかお札を増刷しなかった。一方、米国は3倍に増やした。あふれるドルに比べて円は過少。これが超円高の底流にある。これに50兆円上乗せしても、リーマン前比で1.9倍にとどまる。100兆円の場合でも2.4倍。現在の国際通貨情勢の中では無理のない規模だ。モノに比べてカネの価値が大幅に上がりすぎたために、国内生産活動が萎縮し、数百兆円もの経済成長機会を喪失したデフレ国日本にとってはまだ少なすぎるほどである。
日銀が明確な量的緩和政策に踏み切らざるを得なくなれば、政策の大転換と市場が受け止め、予想実質金利が下がって超円高に歯止めがかかる。金融理論の大家、学習院大学の岩田規久男教授の試算によれば、50兆円の日銀マネーの追加で、円相場は1ドル=100円前後に落ち着く、という。日経センターという研究機関は日経新聞グループに属する。岩田案が、財務・日銀官僚寄りの印象がある日経新聞論調に一石を投じられるか。
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