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2011-11-09 00:00
(連載)ピントはずれの茶会党と正鵠を射る反ウォール街運動(2)
山下 英次
大阪市立大学名誉教授
反ウォール街運動を、健全な政治的勢力に変え、諸悪の根源である米国の格差社会の是正を実現することが望まれる。一般に、大きな経済危機後は格差が拡大するので、こうした所得分配に重点を置いた政策がとられるのはむしろ自然である。大恐慌後の1930年代も、民主党のロウズヴェルト政権が登場し、ニュー・ディール政策を実施した。茶会党のいう「小さな政府」を目指すとしたら、格差がますます拡大することは避けられないであろう。いま、ヨーロッパ経済の苦境が大きくクローズ・アップされているが、本来、米国経済の方が欧州経済よりも、構造上遥かに深刻な問題を抱えていることは忘れてはならない。
バンク・オブ・アメリカが、来年から小口の顧客に対して毎月5ドルのデビット・カード手数料(決済口座維持手数料)の徴求を開始すると宣言し、これに対する反対の署名運動を、米大学院の女学生モリー・カッチポールが9月末からインターネット上で始めた。大銀行は、リーマン危機以降、公的資金(税金)の注入を受けたのに、顧客から手数料を徴求するのはけしからんという主張である。これはワシントンD.C.から始まった動きであるが、33日間で30万人の署名を集め、11月1日、バンク・オブ・アメリカは、遂に、手数料の徴求を取り下げた。すなわち、「草の根革命」が成功したわけであり、大きな意義を持つ。これも、反ウォール街運動と同じ志向をもつ運動にほかならない。また、大銀行から信用組合(credit union)に銀行口座を移そうという2010年1月に誕生したインターネットによる運動 “Move Your Money Project” も、かなりの広がりを見せている。
この運動のウェブサイトは、アメリカの大恐慌時代を舞台に、当時の大銀行と戦った地方の中小住宅金融機関の経営者を主人公(主演=ジェイムズ・ステュアート)にしたヒューマニスティックな名作映画『素晴らしき哉、人生!』(1946年制作、製作・監督=フランク・キャプラ)を前面に出している。すなわち、資金を極力ウォール・ストリートからメイン・ストリートに移そうという運動である。また、ロス・アンジェルスの女性画廊オーナーのクリステン・クリスチャンが始めた消費者運動 “Bank Transfer Day” も、インターネットで、銀行口座を大銀行から地元の信用組合に移転させようという動きであり、一定の支持を得ている。
反ウォール街運動を政治勢力化し、平和裏に社会変革を実現することが強く望まれる。さもないと、いずれ暴動の発生とその鎮圧という数々の暴力を伴う解決になりかねない。仮に、今回の反ウォール街運動が成果を伴わないものに終わったとしても、ここまで格差が拡大してしまった現在の米国社会が持続可能だとは非常に考えにくい。2011年4~6月期の米企業の労働分配率は58%と戦後最低であり、10年前と比べ5%ポイントも低い水準である。かつて、マーティン・ルーサー・キング牧師らによる公民権運動は、非暴力で始まったが、指導者の暗殺等を経て、結局、暴力を伴うものになってしまった。米国が、暴力を伴わずに、民主主義的プロセスによって、大きな社会変革を実現できるかどうかが問われている。おそらく、公民権運動(公民権法の成立は1964年7月)以来の大きな社会変革を、アメリカはいま必要としている。そして、米国が格差縮小に成功すれば、ドル不安を軽減し、世界経済の安定に資することにもつながることになろう。(おわり)
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