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2011-11-08 00:00
(連載)ピントはずれの茶会党と正鵠を射る反ウォール街運動(1)
山下 英次
大阪市立大学名誉教授
近年、米国では、草の根運動の茶会党(ティー・パーティー)の勢力が拡大し、オバマ政権が目指した変革が思うようにいかない状況が顕著になっている。茶会党は、米国という国の成り立ちに根差したものなのだろうが、彼らの動きは、いまの米国社会が抱える問題を解決することには決してならないであろう。なぜならば、彼らの問題意識は、米国社会が抱える一番大きな問題に対応しておらず、ピントが大きくずれていると、筆者には思われるからである。そうしたことから、筆者としては、米国社会が抱える非常に大きな問題・矛盾を解決するには、いずれ暴動の多発という暴力を伴うものになるのではないかと将来を悲観していた。しかし、今年9月17日から始まった反ウォール街運動(反格差運動)は、米国社会から久しぶりに出てきた明るい兆しかもしれない。
というのは、彼らの主張は、格差といういまの米国社会の問題の本質をついているからである。格差が小さすぎると社会の活力が削がれるが、他方、過大な格差は諸悪の根源である。第1に、社会的な緊張を高めることによって、治安の悪化を招く。第2に、格差は、経済・金融危機発生の原因であると同時に結果でもある。危機によって、低所得層がより大きな影響を受け、その結果、格差が広がることは容易に理解できるが、インド国籍で元IMFチーフ・エコノミストのラグラム・ラジャン(現・シカゴ大学教授)によれば、米国のサブ・プライム危機の発生は、米国社会の格差が一因だという(『フォールト・ラインズ』、講談社、2011年)。
すなわち、ブッシュ政権は、露骨な金持ち優遇税制を採用したが、その埋め合わせとして、低所得層向にも住宅所有が可能となるように、公的金融を活用した積極的な促進策をとり、それが無謀な住宅貸付につながったという指摘である。そうした政策の結果、公的住宅金融機関のファニー・メイとフレディー・マックの経営が顕著に悪化し、すでに危機後、両機関ともに数回にわたって公的資金注入を受けるに至っている。両公社は、今年に入ってからも公的資金の投入を受けており、いまだに再建の目途が立っていない。第3に、これが最も重要な点であるが、過大な格差の存在は、政府の高成長志向を招き、国際収支の悪化をもたらす。本来は、国内の所得分配構造を改め格差を是正するような政策をとればよいのであるが、それできないとすれば、低所得層の不満を和らげるには、経済全体のパイを拡大し続けるしかない。その結果、輸入が増大し、経常収支が悪化する。
米国の経常収支は、1977年以来、一貫して赤字であるが、それには国内格差が過大であることが一つの大きな背景としてある。過大な格差をそのままにしておくと、暴動発生のリスクが高まるため、政府としては、高成長を目指すことになる。かつて、中南米諸国は、「高成長志向 → 輸入拡大 → 国際収支悪化 → 対外債務支払い困難」という悪循環に陥っていた。しかし、これらの諸国の多くは、その後、中道左派政権下で格差縮小に向けた政策をとったことにより、そうした悪循環から抜け出した。現在、米国は、かつて中南米諸国が長年苦しんだ悪循環に陥っている。筆者は、もう10年以上前から、「アメリカ合衆国の中南米化」(\"Latin Americanization of the United States\")と呼んで警鐘を鳴らしてきた。米国の場合は、自国通貨のドルで借り入れるために、対外債務支払い困難には陥っていないが、その代わりにドルの対外価値が大きく下落し、世界経済に甚大な悪影響を及ぼす。(つづく)
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