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2011-11-07 00:00
少なくても消費税5%の民間所得が海外に無償でプレゼント
田村 秀男
ジャーナリスト
「超円高」が続く。輸出産業が海外に出て行く「産業の空洞化」が深刻化しているが、政府や伝統的な大企業で構成される日本経団連はむしろ、対外投資のチャンスだと容認モードだ。輸入比率の多い商社などは為替差益を享受しているので、笑いが止まらない。円高になれば何か自分が豊かになると受け止めている御仁も多い。「セレブ」の淑女たちは東京・銀座などの欧州系ブランド品あさりに喜々としているし、悠々自適の年金世代は欧州ツアーのパンフレットに目をやる毎日だ。だが、日本国民全体としては円高につれて貧しくなると断じざるを得ない。なぜか。
円高の逆風下で企業は輸出量を確保しようと輸出価格を切り詰める。統計データをみると、この9月の輸出物価は2年前に比べて6・7%下落した。逆に輸入物価はエネルギー資源高騰の影響で14・3%上昇した。この間、円はドルに対して19%高くなっている。円高や輸入コスト上昇分に合わせて輸出価格を大幅に引き上げなければならないのに、逆に値下げしている。大企業は当然のように人件費や中小・零細の部品・材料メーカーからの調達単価をカットする。多くの関係者が犠牲を強いられ、得べかりし所得を失う。日本の輸出総額は年間約64兆円(2010年)で、少なくても十数兆円程度の民間所得、消費税5%以上相当が海外に無償でプレゼントされていると筆者はみる。
国際収支統計によれば、日本の対外投資収支(「海外からの投資収益」から「国内から持ち出される投資収益」を引いたもの)は昨年が11兆7022億円、今年前半が7兆2764億円の黒字で、いずれも貿易収支黒字の2倍以上である。だから日本は100年以上前の大英帝国のような成熟した債権国になってきたと評価する向きもあるが、とんだ勘違いである。日本の対外投資は年々増えているが、海外で得られる配当や利子などの投資収益は07年の23兆5000億円をピークに減り続け、10年には15兆2000億円まで減った。ドルなど現地通貨で得られる利益が本国の帳簿に記載されたとたん、円高分だけ縮小するからだ。
日本の対外純資産はこの6月末で260兆3780億円に上る。世界最大であり、海外からの果実はいかにも頼もしいように見えるが、これも円高のために圧縮される。仮に07年の円ドル相場水準で推移したとすれば、10年末の対外純資産は財務省が公表する対外資産統計の251兆円よりも100兆円あまり多くなる計算になる。投資収益も約4割増えたはずである。かつて金本位制をとる大英帝国は銀本位制の植民地インドからの輸入債務が膨れあがると、銀の対金相場を高騰させて債務を帳消しにした。英国の対インド債務は英国政府発行の証券で支払い、この証券をロンドン市場で流通させて手数料を稼いだ。自国通貨円で勝負せず、ドルの帝国に依存する現代日本はその当時の英国ではなく、インドに似ている。
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