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2011-10-31 00:00
TPPをめぐる民主主義政治の欠陥
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
与野党を含めると、両院の過半数が全農のTPP反対請願を支持しているという。例によってねじり鉢巻で「許さないぞお」と拳を突き上げる集会には、国会議員が170名ほど参加。混合医療に反対の医師会も同調して、にわかにTPP許すまじ派が賑やかさを増してきた。TPPに加盟でもしたら、日本の保健医療制度が根底から揺らいだり、国土が荒廃したり、法律が英語になったり、裁判が英語で行われたり、低賃金外国人労働者が巷にあふれたり、とおぞましい予言のオンパレードで、ネットの上でも例によって怪情報が乱れ飛んでいる。
荒唐無稽な話は別にして、「議論を尽くしていない」「拙速に過ぎる」「バスに乗り遅れたって良い」式の論調がファナチックな議論と一線を画するかのように横行しているのは笑止の極みと言うべきだろう。野田内閣、ひいては民主党政権がこれまで情報開示や世論喚起について十分な対応をとってきた、と弁護するつもりはない。福島原発事故後の対応ひとつをとっても、いかにお粗末で不手際だったかは周知の事実だ。しかし、TPPは何も昨日や今日俎上に上った話ではない。菅内閣が前向きの態度表明をしたのは2010年の話だし、その気になれば学習する時間は十分にあった筈だ。それをいまさら拙速呼ばわりするのは、何も変えたくない、明日は今日のままが良い、という字義通り「保守」のスタンスに過ぎないことは、どのような修辞法を用いようと、明々白々であり、それに誰も気づかないと思っているのは、自分の言動に酔った(ふりをしている?)ご本人だけだといってよい。
日本は資源小国で、貿易が国家存続の大前提である、なんていうのは、改めて説く方が面映くなるくらいのイロハの議論だ。その日本が、関税の原則廃止に反対するというのは、大局観を欠いているとしか言いようがあるまい。弱小産業保護、景観保存、歴史的価値観保全はいづれも大事な国家運営上の要素だろう。しかし、それを自由貿易や関税撤廃との二項対立として捉えるというのは、無知に基づく知的怠慢か、作為に基づくデマゴーグに他ならない。流石にわれらが泥鰌内閣はここでの舵取りを誤ることはないと思うが、群れて気勢を上げている無責任な既得権益の擁護者たちも、どこかでほどほどに留まる良識くらいは持ち合わせがあることを期待したい。
明日出来ることは今日するな、というスタンスの政治が随分永く続いたように思う。今日何もしないことによって利益を得る人々は常に存在する。特定の人だけが利益を得て、不利益を被る人々が不特定多数の場合、利益集団の主張が通りがちなのは、民主主義政治の基本的な欠陥の一つだ。その欠陥を補うことが出来るのは、優れた指導者か、大衆の英知しかない。さて、われわれはどちらに期待することが出来るのか。鉢巻き姿で威勢良く拳を突き上げている代議士の面々を拝見していると、心ならずもおやりになっている、と信じたくもなるのだが。
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