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2011-10-28 00:00
◎“土遁の術”の野田政権、崖っぷちの攻防段階に
杉浦 正章
政治評論家
政権発足2か月ともなると、“本性”が見えてくる。首相・野田佳彦の政治路線はひたすら刺激回避の低姿勢に徹している。まるで忍術の「土遁(どとん)の術」で、泥に這いつくばったドジョウと化して、時々姿まで消える。オレがオレがで八方破れの前・元首相への逆張りである。その路線は「脱・脱官僚」による「政官協調」、「政策決定の自民党化」など政権維持の急所を押さえており、野党も一時「主敵喪失感」が生じた。しかし、この土遁の術もこれまでだ。今日28日の所信表明演説を皮切りに、政局秋の陣が始まる。自ら「崖っぷち」と語ったとおり、待ったなしの正念場となる。
逆張り低姿勢政権は、戦後2回ある。安保改訂の岸信介の後の池田勇人と、消費税増税の橋本龍太郎の後の小渕恵三だ。池田は「低姿勢」と「寛容と忍耐」で、小渕は「人柄の小渕」を売りに、ひたすら低姿勢を演じた。野田政権の2か月を観察すると、池田と小渕を足して2で割ったような印象を受けるが、池田のように「所得倍増」といった大衆を魅了する理念はない。また「ブッチホン」の小渕が各方面や民間テレビ番組にまで電話をかけまくったような、大向こううけは狙わない。むしろ、ひたすら党内と野党、官僚、マスコミにだけに気配りした、“政治のプロ”対策の低姿勢だ。その逆張りは、代表就任直後から始まった。民主党政調会長の権限強化策だ。政策決定で政調会長重視を打ち出したのだ。これはマニフェストの内閣一元化を改めるもので、まさに民主党が批判してきた自民党型政治への大変身である。内閣は事実上事務次官会議を復活させ、「政官共存」を印象づけた。外務次官からの国際情勢聴取も頻繁に行われるようになった。政権奪取で舞い上がった鳩山由紀夫とは逆に、内政・外交共に慎重路線を選択。支持率目当てに小沢一郎と対決した菅とは逆に、支持率を犠牲にしても小沢一郎との協調路線を選んだ。
この結果、今のところは小沢の“くびき”から事実上外れることに成功しているように見える。鳩山は小沢を幹事長に据えて党高政低の2重権力構造で苦境に陥り、菅は小沢との対決で瀕死の重傷を負ったのとは対照的だ。するりと抜けるドジョウの政治の面目躍如であろう。TPPに関する発言を見れば分かるが、小沢側近の幹事長・輿石東も、政調会長代行・仙谷由人も野田への協調姿勢を維持している。このように野田は、極めて刺激を避ける政治手法で、政権の基盤を固めつつあるように見える。2か月間という短期間にしては、大きな転換を成し遂げつつあるようだ。「私は民主党で3人目の首相になった。崖っぷちであると強く意識している」と自ら述べているように、後がないからこそ、前2代の轍を踏まない路線を選択しているのであろう。しかし野田は連合会長の古賀伸明との会談で「社会保障と税の一体改革、環太平洋経済連携協定(TPP)は、11月がヤマになる」との見通しを示している。就任後の2か月はまだほんの前哨戦であることを十分認識しているのであろう。その証拠に、低姿勢だけでは処理不可能な問題がひしめき始めた。
野党との話し合い協調路線も、とても維持できる情勢ではない。10月28日からは環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる党内論議が本格化する。政権与党を2分、野党も巻き込んで、来月12日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)を期限に、ぎりぎりの議論が続く。8日頃には野田の最終決断を迫られる状況に至ると予想される。社会保障と税の一体改革、すなわち消費増税も来年の通常国会に法案提出の流れであり、来月から年末にかけて最終決断を迫られる。国会の論戦は来週明けから始まり、野党は通常国会での解散実現のための前哨戦と位置づけて本格攻勢を仕掛ける。小沢に対する証人喚問要求や、マルチ商法献金の消費者担当相・山岡賢次ら閣僚に対する追及も、山岡への問責決議まで視野に入れた攻勢に発展する可能性がある。2か月で急ごしらえした防波堤は、今後つぎつぎに到来する大波で突き崩されかねない段階に入るのだろう。
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