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2011-10-26 00:00
(連載)中国高速列車事故とチェルノブイリ(3)
山下 英次
大阪市立大学名誉教授
チュニジアを皮切りに、中東・マグレブ各国で、ジャスミン革命が起きている。中東で、こうした 市民革命が起こると事前に予想した人は専門家の間でもほとんどいなかった。また、チュニジアは、一見すると、こうした動きが起こるとは最も考えにくい国とみられていたと思うが、市民革命最初に起きたのは、所得水準が比較的高かったことにあるのかもしれない。産油国を除けば、チュニジアはマグレブ・中東諸国の中では最も所得水準の高い国であり、割合厚い中間層がある国である。ちなみに、チュニジアの2010年の一人当たりGDPは4,160ドルであるが、同じ年の中国のそれは4,412ドルであり、両国の水準はほとんど同じである。また、上海、北京、天津では、すでに10,000ドルを超えている。所得水準の向上と分厚い中間層の形成とともに、人々は言論・行動の自由を求めるようになるものである。
中国は、非常に大きな所得格差の存在という国民の不満の種を抱えている。所得格差の大きさを示すジニ係数は、中国では非常に高いし、中国の専門家も、「あのアメリカよりも中国の方が格差は大きい」と認めている。国民に機会均等が与えられ、競争の結果として大きな格差が生じているのなら民衆の不満はそれほど大きくならないかもしれないが、多くの不正が介在しているとしたら、人々の憤慨は一層強まることになる。中国の一般の人々は、役人というものは金持ちであり、良い生活をしていると認識している。役人の給料が高いということはなさそうなので、役人による不正・汚職が蔓延しているわけである。
高速列車事故から半月たった時点で、中国メディアによる当局に対する批判はほぼ消えたと言われる。旧ソ連の場合は、共産党書記長のゴルバチョフが、改革志向で、グラースノスチの旗を振ったということが大きい。それに対し、中国の胡錦濤国家首席は、改革派ではないということは確かにある。しかし、国民の誰もが関心を持ち、しかも分かり易いテーマで、人災が起こり、そして、政府がその対応を明らかに誤った、という点で、チェルノブイリと中国高速列車事故は共通する。また、国民の誰の目にも分かり易いという意味では、中国列車事故の方が、原発事故より遥かに上であろう。今後の成り行きについては、中国版ツイッター「微博」(ウェイボー)がどこまで効果を持ちうるかにかかっていると言えよう。微博とは、「微博客」の短縮形で、ミニ・ブログ(micro blogging)という意味である。
中国には、現在、10数サイトの微博があると言われるが、そのうち、新浪微博(Sina Weibo)が圧倒的なシェアを占める。2009年8月にスタートし、2011年4月末現在のユーザーは1億4,000万人である。全部合わせれば、微博のユーザーは、すでに2億人に達しているとみられる。しかも、中国の中間層の教育水準は、国際的にみてもかなり高い。微博の文字数の制限は140字であるが、漢字の140字であるため、英語のツイッターより情報量はかなり多い。微博のユーザーは、かなり幅広いが、中心は知識層と中流層以上であると言われる。また、中国のインターネット・ユーザーの数ということでは、すでに5億人に迫っているとみられている。中国は、いまのところ人海戦術を含めた種々の対策によってインターネットを統制しているが、それがいつまでも有効性を保つとはむしろ考えにくいのではないだろうか。(つづく)
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