ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
本文を修正後、投稿パスワードを入力し、「確認画面を表示する」ボタンをクリックして下さい。
2011-10-17 00:00
TPPには「まず参加、その後離脱あり」の2段構えで決断せよ
杉浦 正章
政治評論家
関税を原則撤廃する環太平洋経済連携協定(TPP)への参加の是非の問題は、端的に言えば「興国か、亡国か」の選択であろう。関税自由化へのとうとうたる世界的な潮流に、日本だけが抵抗すれば、工業立国として存在自体がが危うくなる。単なる民主党議員の選挙区事情によって左右されるべき問題の範疇を超えている。首相・野田佳彦の弁舌が滑らかなのはよく分かった。その弁舌をもはやリーダーシップ発揮の行動に移す段階だ。11月12日からのAPEC首脳会議前の決断が不可欠だろう。その場合、まず交渉への参加を決断して日本の主張を展開し、受け入れられなければ途中で離脱する、という二段構えが、政治的解決策としては最良だ。TPPを米国が推進する背景をまず大きく見れば、紛れもなく台頭著しい中国へのけん制という世界戦略が背景にある。米国は、イラク、アフガニスタンのくびきから徐々に“撤退”し、北東アジアにおける中国台頭への対応へと安全保障の比重を移しつつある。米韓首脳会談で衝撃の自由貿易協定(FTA)が合意に至ったのも、まず第一義的に対中けん制がある。
もちろん日本への牽制の側面はあるが、二番目である。まず中国をけん制し、日本のTPP参加を促すという一石二鳥の手を打ってきたのだろう。日本に対しては、関ヶ原で洞ヶ峠を極め込む小早川秀秋陣に徳川家康が発砲させて脅しをかけ、参戦を促したのと同じだ。要するに、野田は、まず米大統領・オバマから、言葉でなく実行を迫られているのだ。しかし、民主党内の空気はそう簡単なものではない。農水相・鹿野道彦と「TPPを慎重に考える会」会長の山田直彦が中心になって野田包囲網を築きつつある。山田によれば、既に191人の反対署名が集まっているという。本当なら民主党国会議員の半数が反対していることになる。しかし、この反対陣営なるもの、一枚岩かというとそうでもないようだ。政調会長・前原誠司が反対論について「事実でないことへの恐怖感に根ざしており、これをTPPお化けと言う」と揶揄しているくらいだ。「外国人移民が堰を切って流入する」とか、「国民皆保険制度が崩壊する」などというあらぬうわさに踊らされている側面がある。また国民新党代表・亀井静香のように、米国の謀略説まで持ち出して反対する方向音痴もいる。もちろん、選挙区から突き上げられている事情もあろう。従ってこのまま放置すれば、議論は収拾がつかないところに行く気配を見せている。山田も「強行すれば党がどうなるか分からない」とすごんでいるのだ。
まるで1971年の佐藤内閣における日米繊維交渉と酷似している。難航して自民党内は二分、「前向きに対処」という佐藤栄作の苦し紛れの言葉を信じた米大統領・ニクソンは、「ジャップの裏切り」と口走ったとも言われるほどだった。通産相・宮沢喜一では手も足も出ず、結局田中角栄が通産相に就任し、「ことは外交でなく、内政」と看破し、繊維業者に資金を配って、機織り機を廃棄し、輸出を抑制したのだ。今回も農業従事者対策が最大の眼目であり、外交でなくまさに内政なのだ。だが、工業立国を選択せざるを得ない以上、しょせんどこで見切るかが焦点となる。TPPの交渉段階で参加しない限り、発言権も確保出来ず、それこそTPPお化けが出てくることになりかねないのだ。外交評論家・岡本行夫が10月16日NHKで「普天間もTPPも両方出来ないのではないか」と簡単に悲観論を口にしたが、普天間とTPPとは難易度が違う。普天間は鳩山由紀夫のおかげで、修復不能な状態に陥ったが、TPPは説得の仕方によっては可能だ。また野田は、それこそ命がけで説得に当たらなければならない。TPP断念が意味することは、工業立国の断念であり、みすみす韓国に席を譲り、日本は長期低落の悲哀を味わうことになるのだ。
野田は、10日にTPPの交渉参加問題について「議論して早急に結論を得るというのが、従来の政府の姿勢。政府・民主党に議論を始めるように指示した」と述べたが、指示すればよい段階は過ぎつつある。自らが議論の現場に立って、説得に当たるしかない状況となっているのだ。首相がその言葉で珍しがられる時は過ぎた。リーダーシップの発揮が求められる段階なのだ。車、電気製品、電子機器など我が国の生命線の輸出をみすみす他国に奪われるかどうかの瀬戸際なのだ。世論は全国紙のすべてが、社説でTPP推進論だ。ただ、読売だけが社説で「気がかりなのは、政府・民主党内に『交渉に参加し、言い分が通らなければ離脱すれば良い』との“途中離脱論”があることだ。反対派をなだめる方便だろう。だが、参加する前から離脱をちらつかせる国の言い分が、交渉の場で説得力を持つとは思えない」と指摘している。確かにスジ論としてはもっともで、1社だけがポイントを突いている。だが、交渉ではどの国も自国の利害関係を最重視する。まず、交渉で自国の主張を受け入れさせるためには、“途中離脱論”を米国にちらつかせるくらいのテクニックを使って当然だ。確かに反対派への説得効果もある。もともと国会で批准されなければ意味もない。日本が入らなければTPPの効果は半減するのだ。甘く見られる必要はない。日本も払う犠牲は大きい。交渉に入る以上は、遠慮は必要ない。強い立場で臨むべきではないか。
投稿パスワード
本人確認のため投稿時のパスワードを入力して下さい。
パスワードをお忘れの方は
こちら
からお問い合わせください
確認画面を表示する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会