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2011-09-21 00:00
南シナ海問題は台湾問題の小さな附属物にすぎない
岡崎研究所
シンクタンク
“Foreign Policy” 誌9-10月号で米 CNAS のRobert D. Kaplan が、「かつて米国がカリブ海を制し、西半球の覇者となったように、中国は南シナ海を制しようとしており、今後、国際政治の争いの場は陸上から海上に移ることになるが、米国はそうした力の均衡の変化に順応するのが賢明だ」と論じています。すなわち「20世紀の初め以来、われわれは大量殺戮の通常戦争やゲリラ戦争に慣れて来たが、18世紀以来初めて陸上の国境に脅威が無くなった中国の関心は、海洋に向かっており、来る戦争は海上中心のものになろう。今の中国の立場は19世紀から20世紀初頭の米国のカリブ海に対するものと似ている。米国は米西戦争とパナマ運河の開通により、カリブ海を制し、西半球の覇権を確立して、東半球とバランスを取るようになった。南シナ海は今もスエズ運河の6倍、パナマ運河の17倍の船が通る交通の要所だが、中国のエネルギー消費は2030年には倍増すると予想され、南シナ海における中国と他の沿岸国との対立は深まり、沿岸国は多かれ少なかれ米国に依存することになるだろう。どうしたら、南シナ海の戦争を避けられるだろうか」と言っています。
また、カプランは、豪州国立大学のHugh White 教授の「中国は巨大になるにつれて、アジアにおける米国の軍事的優位に満足しなくなるかもしれない。中国が望むのは、カリブ海に対する米国のように、各国の内政に介入しないが、覇権を維持することだ。ただ、これでは日本は満足しまい。とすると、日米中印のコンサート・オブ・パワーということになるが、今度は米国がその程度では満足しないだろう。米国の優越はアジアの不安定要因だ。他方、中国は閉鎖的というよりも開放的になりつつある低度の独裁国家であり、また、自らを、米国のように他国の内政に干渉しない鷹揚な大国と考えているので、一番良いのは、米国が今の軍事力を維持したまま、中国との良好な関係を維持し、時間をかけて、中国の海軍力の増強という現実に適応して行くことだろう」との論を紹介しています。
カプランによれば、ホワイトは「中国は南シナ海において一種の宗主国として、寛大な国となることを目指しているだけであり、中国の力が強くなるのは抗し難い必然なのだから、米国はそれに順応すべきだ」と論じているようですが、ホワイトが米国を東南アジアの不安定要因と考えているのには驚きます。また、カプランもこのホワイトの論に影響を受けているようです。しかし、世界にとっても、中国にとっても、東アジアの将来の最大の問題は、台湾問題であり、南シナ海は台湾問題の小さな附属物に過ぎません。台湾海峡のバランス・オブ・パワーの変化に米国が屈した時こそ、全アジア、ひいては全世界のバランス・オブ・パワーに決定的な変化が起こると考えられます。従って、中国に台湾の併合を許さないことが、21世紀の米国の国家戦略の最大の課題です。
そのリベラルな論調と表現から見て、おそらくホワイトは、他のリベラル急進派の議論と同じく、台湾は自然に経済的に本土に吸収されることで、既に決着がついた問題だという考え方なのでしょう。これは現実からの逃避ですが、そう考えない限り、21世紀のアジアの将来を台湾問題抜きで考えるという発想は出てこないでしょう。こういう一見ソフィスティケイトされた議論が行われることに危惧を感じざるを得ません。
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