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2011-09-13 00:00
野田は“政権が重荷”で逃げるのか
杉浦 正章
政治評論家
「どじょう」が豪放磊落(らいらく)な性格で物事を仕切ったら、野党がやられると思ったが、この10日間やることは全く逆だ。政権全体が「逃げの一手」のように見えてきた。国会から逃げ、マスコミから逃げでは、国民から逃げていることに他ならない。首相・野田佳彦のキャッチフレーズ「国としてスピード感を持った対応をする」は、台風災害でも発揮されず、失言閣僚の後任人事にだけに発揮された。これで未曾有の国家的危機に対応できるのか。「スピード感を持って逃げる」と変えた方がよい。9月13日から臨時国会が始まるが、「閣僚の答弁が出来ない」という理由で、予算委審議もせずに、たった4日間で終えるという。「不完全内閣で、十分な答弁が出来ない」と予算委審議拒否の理由を述べた国対委員長・平野博文は、先見の明があったことになる。政権発足9日目にして失言による閣僚辞任劇である。ここで問題は、鉢呂吉雄の発言を反省するどころか、マスコミのせいにするという政権の体質である。
政権が問題にしているのは、鉢呂の「死のまち」発言は公の場でのものだったが、致命傷になった「放射能つけちゃうぞ」発言は非公式な場での発言であったということだ。記者懇談の場での発言であり、これを報道するのはけしからんということのようだ。官房長官・藤村修が9月11日の会見で「この事態は、今後の報道との付き合いにおいて、少し検証しないといけない。輿石氏が動く」と政府・与党でマスコミにチェックを入れる方針を表明した。当の幹事長・輿石東は「報道のあり方について、みなさん自身ももう一度考えていただきたい」と述べて、報道機関の幹部からの「事情聴取」を始めた。昨日の稿で「スターリン治下のソ連共産党」との指摘を紹介したばかりだが、報道管制になりかねないことをを始めたわけだ。日教組出身だから、自分がしていることの意味を知らないはずはない。どうもこの男は、物事をマイナスに考え、報道を統制しようとする暗い性格を持っているようだ。「逃げの野田政権」を象徴してしまっている。
もともと政治取材の場合、記者はたとえ非公式な取材の場でも、取材源からオフレコの念を押されない限り、「書く」のが前提である。鉢呂の「放射能つけちゃうぞ」の言動には、顔見知りの記者達への“甘え”があったとしか思えない。仮にも閣僚であり、その立場を忘れていたに違いない。中東のことわざに「サソリは刺すのだ。頼まれて背中に乗せたカエルが悪い」というものがあるが、記者は「書く」のだ。甘く見る方がおかしい。しかし「書く」からといって懇談の慣習をなくすことを考えているとすれば、政権の“逃げ”であり問題だ。懇談の慣習は政治家が公の会見で本心を言わないから出来たものだ。米国のホワイトハウスでも、国務省でも、やっている。さらに問題なのは、たったの「4日間国会」である。平野が重要な国会日程を野田に相談しないことはあり得ないから、予算委開会には野田自身が消極的なのだろう。野田が消極的だから、下も消極的になる。首相が所信表明をしながら、予算委を開催しない例は、極めて少なく、今回の場合のように「不完全内閣」を理由にした不開催は憲政史上かってない珍事だ。
台風12号の被害は甚大であり、大震災復興のための第3次補正予算案をはじめとして、課題は山積みである。第3次補正予算案も自民党はほぼ出来上がっているのに、野田政権は10月下旬提出とは一体何事であろうか。加えて、郵政改革法案などたなざらし法案や超円高対策、財政再建・消費税導入問題など審議すべき重要課題は山積している。大震災以来「通年国会」の必要が叫ばれているにもかかわらず、また被災地からの復旧・復興へのスピード不足にうめき声が聞こえるにもかかわらず、野田は逃げ続けるのだろうか。この国の政治は民主党のお家事情のためにあるのではない。お家事情で2年間に3度も政権を交代させて政治空白を作り、今度もこの緊急時に次の臨時国会まで1か月の空白は許されない。今からでも遅くない。通年国会とすべきだ。首相の外遊などは理由にならない。野田は就任の記者会見以来、会見は開かず、官邸でのぶら下がり取材にも応じていない。最初の明るさはなぜか消え、アドバイザーがいないのか、陰鬱(うつ)な表情だけが目立つ。政権が「重荷だったのか」と思いたくなるようなこの頃である。
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