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2011-06-29 00:00
「脱原発解散」の野望は封じ込め可能だ
杉浦 正章
政治評論家
「米帝国主義は日中両国人民の共通の敵」と発言したのは日本社会党書記長の浅沼稲次郎だが、政界ではもはや「首相・菅直人は与野党共通の敵」となった。追い詰められた菅の表情は狼狽(ろうばい)と焦燥感に満ちたものとなっており、その精神状態も政治家にとって一番重要な平衡感覚(センス・オブ・プロポーション)に欠けるに至った。両院議員総会で、禁じ手の「脱原発解散」に露骨にも言及せざるを得ないほど追い詰められているのが、そのなによりの証拠だ。しかし、実際に解散ができるのか。また、解散をして勝てるのか、というと話は別だ。感情論で国政の選択をするほど国民は低レベルかということだ。とにかく、事態は異常だ。首相が、与党の両院議員総会でつるし上げを食らい、それに先立つ役員会で批判が繰り返される。与野党国対委員長らは、菅の体たらくを嘆き合う。心ある閣僚からは、公然と“一本釣り”批判が出される。これに対して、前日は「脱原発解散」の質問にあえて答えず、含みを残した菅が、今度は両院議員総会で「エネルギー基本計画の見直しも含め、エネルギー政策をどのような方向に持っていくかは、次の国政選挙でも最大の争点、議論になるのではないかと思っている。後世に禍根を残すことのないよう、残された期間の中で、原子力行政の方向性だけは示したい」と脱原発を争点にした解散の可能性に言及したのだ。
菅の最後の生き残り戦略は、「再生可能エネルギー買い取り法案」での与野党攻防を軸に解散ムードを盛り上げ、最終的には「脱原発」の是非を問い、解散に持ち込もうというものだ。浜岡原発停止で8割の支持があることを背景に選挙を打てば、勝って政権を長期に維持できるという“野望”がある。しかし、ことはそう単純ではない。四面楚歌の中でそれが可能かということだ。財務相・野田佳彦は、エネルギー政策を争点とした衆院解散について「あり得ない。あってはならない」と反対する考えを示した。幹事長・岡田克也も「これだけ多くの被災者を抱え、解散をしている時間はない」と否定した。主要閣僚と幹事長が反対する解散を断行できるだろうか。恐らく野田は菅が解散しようとすれば解散詔書への署名を拒否するだろう。拒否する閣僚は6~7割に達するだろう。菅は、拒否閣僚を罷免して、自ら署名しなければならない。そんな荒療治をする余力があるかどうかだが、自民党総裁・谷垣禎一は「政権はもはや暴走状態にある」と述べている。何をしでかすか分からないところが不気味なのである。
では、解散を断行できたとして、選挙に勝てるかだ。まず「再生エネ法案を脱原発に結びつけられるか」というと、無理がある。企業や多くの一般家庭などから恒常的に余剰電力を買い取れるようになるには、10年から20年かかる長期課題だ。一方、脱原発は運転休止中の原発再稼働問題と密接に絡んだ喫緊の課題だ。長期と短期をごちゃ混ぜにして「まやかしの解散」をしようとしても、国民がだまされるかどうかだ。民主党のマニフェストを信用して2人の首相から「えらい目」に遭っている国民は、疑ってかかるだろう。ましてやエネルギー問題は、国家経営の基幹に関わる問題であり、原発事故の灰燼(かいじん)も収まらない段階で、大衆の感情論のみを頼りに選挙の争点にしてはならない。再生エネ法案も国家百年の計を視野に真摯(しんし)に議論すべき問題であり、政争の具にすることは邪道だ。だいいち菅は、自らベトナムに原発を売り込み、昨年6月の閣議決定で「2030年時点での総電力に占める原子力の割合を50%にした」張本人ではないか。原発の「大推進論者」が、手のひらを返したように脱原発を唱えても誰も信用しない。
また、脱原発をシビアな争点にしようとしても、民主党内には原発推進論者が多く、逆に自民党内にも河野太郎のようにエキセントリックな反原発論者もいる。各党とも対立軸にしにくいのだ。もし解散に踏み切れば、自民党も「将来の課題としての脱原発、自然エネルギー導入」を打ち出せばよい。安全な電力供給源が出来れば、それに越したことはない。誰も否定できるものではない。菅が脱原発を主張して「脱原発新党」でも作るかどうかだが、そんなエネルギーは、いくら孫正義が応援しても、残ってはいまい。ついて行くのは、防衛相・北沢俊美、法相・江田五月、それに亀井静香くらいしかいまい。従って「脱原発解散」が成り立つかどうかは、菅側近が苦し紛れの謀略情報として流した側面があり、現実には難しい。しかしひょうたんから駒の「解散暴走」を止めるのも、なかなか一筋縄ではいかないところが問題なのだ。
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