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2011-05-24 00:00
塩水注入中断の実態は菅の“間接指示”だ
杉浦 正章
政治評論家
「海水注入の報告が上がっていなかったから、止めよというわけがない」という、首相・菅直人のトリッキーな“理論武装”に二の矢を継ぐことができず、5月23日の論戦は「谷垣山」の負けと言ったところだ。前夜、総裁・谷垣禎一、副総裁・大島理森、幹事長・石原伸晃が集まって鳩首協議しながら、衆院特別委での追及は新聞報道の域を出なかった。しかし、浮かび上がった事実関係は、菅が明らかに可能性の極めて少ない再臨界を懸念しすぎて、これが東電関係者を通じて本社に伝わり、注入を止めたことにある。本質的には、菅の“間接指示”と言って良い状況が生まれていたのだ。この“核心”に谷垣の追及が及ばなかっただけだ。もっとも「負けて、勝つ」とっかかりだけはつかんだと言えよう。
論戦を詳細に分析したが、明らかに菅は2点で言い逃れをする作戦だった。一つは「私や、私と一緒にいたメンバーが海水の注入を止めたことは全くない」であり、他の一つは「注入の報告が上がっていないものを、『やめろ』とか、『やめるな』とか、言うはずがない」だ。そして菅の作戦に谷垣の力量が及ばずに突破できず、最後に「大きな覚悟をもって、今後に臨む」と捨てゼリフを吐いて終わった。しかし、それではなぜ東電がいったん開始した塩水注入を止めたかと言うことになる。東電側は原子力立地本部長代理・松本純一が「官邸側から『再臨界の可能性があるとの認識を持っている』と伝わってきたので、いったん止めた」と公式会見で官邸の意向を忖度(そんたく)した内情を明らかにしている。一体誰が伝えたかということになるが、昨日書いたように、官邸にいた東電関係者が伝えたのだ。
5月24日付の朝日に詳しく報じられているが、官邸に詰めていた東電元副社長の武黒一郎が“雰囲気”を伝えたのだ。東電は現場に「武黒フェローから連絡があった。首相から指示があるまで中止せよとの要請だ」と、注入ストップをかけたのだ。問題は武黒にこのような反応をさせた官邸で、一体何が行われていたかだが、まさに“知らぬ同士のチャンチキおけさ”だ。菅が、その資質に問題のある原子力安全委員会委員長・班目春樹に海水注入による臨界の可能性を聞き、班目が「可能性はゼロではない」との回答をして、「さあ大変だ」との反応が同席者に走ったのであろう。しかし、再臨界は、地震直後に自動的に核燃料集合体の隙間に制御棒が挿入された段階では、起き得ない。問題は、燃料棒が溶融して落ちた段階での可能性がないわけではないことだ。しかし、これには溶融した燃料が一定間隔に再配置されなければならないことなど条件がある。そんなことはまずあり得ないのだ。したがって「可能性はゼロに限りなく近い」(専門家)のだ。また、再臨界が起きた場合も、爆発して圧力容器が破損し、放射性物質が一気に拡散するなどという事態にはならない。一度、原子炉が停止した後の再臨界では、稼働中のエネルギーとはほど遠いエネルギーしか出ない。
こうした因果関係を知らない菅が、チェルノブイリの影におびえて過剰反応し、会議が「大変だ」という空気になったに違いない。班目が「可能性がゼロではない」と述べたにしても、その場の雰囲気というものがある。少なくとも、発言には心配を加速させる方向で相づちを打った要素があったに違いない。結果は、最も重要な段階で、可能性がゼロに限りなく近い問題で議論が巻き起こり、武黒はその官邸の雰囲気を東電に伝達したのだろう。谷垣は、核心が菅の発言にあるのではなく、なぜ東電が注水にストップをかけたのかにあるのだから、そこから質問を説き起こすべきだった。それにつけても、班目はお粗末だ。国会答弁でも「いまでも再臨界にあるとおっしゃる学者がいる」とマイナーな学者の言葉を引用して、こだわっているが、圧倒的多数の学者は「あり得ない」で一致している。読売によると、国民新党代表・亀井静香が23日、班目を「でたらめ委員長が修羅場であんなことを言っている。日本の危機を迎えたその場において、原子力安全委員会の責任者が、そういうことしか首相にアドバイスできない」と講演で批判、菅に同日夜電話し、更迭を求めた。確かに「原子力唖然委員会」の「でたらめ委員長」は、菅と共に舞台から去るべきだ。
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