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2011-05-23 00:00
抜本的な対テロ政策は、フェアな対中東政策
山下 英次
大阪市立大学名誉教授
5月2日未明のウサーマ・ビンラーデンの殺害に、多くの米国国民は単純に歓喜したが、果たしてこれによって事態は良い方向に進むのであろうか?テロは、厳しく非難されるべきであるが、なぜそうしたことが起こるのか、その背景や要因を正しく分析しなければ、世界がより安全になることは決してない。
米国は、テロリストを、ごく一握りの異常な精神の持ち主と決めつけたがるが、一般のイスラーム教徒も、テロリストも、イスラエルを偏愛し、その結果、パレスティーナの人々を苦しめ続ける米国のアンフェアな中東政策に激しい憤りを感じていることに変わりはない。イスラーム教徒、とりわけほとんど多くのアラブの人々は、米国の中東政策に憤慨しているが、テロという行為に走る者は、ごく一部である。しかし、彼らの憤りを買う最大の要因が、米国の中東政策であることに変わりはない。権力を持つものが大きな不条理を生み出している場合、それに立ち向かわなければならない圧倒的に弱い立場にある者の常套手段は、遊撃戦、ゲリラ戦、さらにはテロリズムといったことになりがちである。それは、古今東西、歴史が証明している。アンフェアな中東政策をそのままにしておいて、「アル・カーイダを中心とするテロリストは米国の敵であるが、一般のイスラーム教徒は米国の友達ですよ」と、イスラーム教徒に呼びかけても、それは無理というものである。公平な政策によって、中東で、イスラエルとパレスティーナを共存させる道を、強力に推進していくしかない。
パキスタン国民の反米感情はかなり強いが、同国政府は、これまでかなりの無理をして親米路線をとってきた。しかし、今回、米国があからさまにパキスタンの主権を侵害したことから、ザルダリ政権は、国民感情に反してこのまま親米路線をとり続けることができるのであろうか?また、チュニジアのジャスミン革命に端を発し、エジプト、リビア、シリア、イエメンなどマグレブや中東各地の民主化の動きは、テロのもう一つの背景、すなわちイスラーム社会内部の要因を改善するものであり、無論、国際社会全体にとっては非常に好ましい。しかしながら、自由で民主的な選挙の結果、中東各国で親米政権が誕生することはまずないであろう。これまで、米国が長年にわたって、中東政策における巨大な失敗を積み重ねてきてしまったからである。加えて、5月4日、これまでパレスティーナの内部で対立してきたヨルダン川西岸を支配する主流派のファタハとガザ地区を支配するイスラーム原理主義者のハマースが、統一政府の樹立で正式合意した。今後の中東情勢は、米国とイスラエルにとっては、基本的にはむしろ都合の悪い状況が生まれてくるのではないだろうか。
この際、ヨーロッパや日本などの同盟国は、ウサーマの殺害について、米国に祝意を送っているような場合ではなく、テロの根因に対処すべきだと、米国に迫るべきである。米国のアンフェアな中東政策は、米国の国内事情に基づくものである。しかし、その国内事情によって、国際社会全体が危険に晒されているわけであり、国際社会には、それに抗議する正当な権利があるはずである。また、その米国の国内事情が、世界の他のどの地域の人々よりも、米国国民自身を最も大きな危険に晒しているのだということを、国際社会は強く訴え、米国に思慮深い行動を求めていくべきである。幸い、5月19日、国務省で行った中東政策演説において、オバマ大統領は、中東和平交渉は今後、1967年の第3次中東戦争以前の国境を原点として、イスラエルとパレスティーナの共存を図るべきだ、とする新しい方針を打ち出した。すなわち、オバマは、米国内の大きなタブーの一つに挑戦して、ようやくフェアな中東政策を打ち出したわけであり、日本を含む国際社会は、この新政策を強く支持し、中東和平を実現させていくべきである。それこそが、抜本的な対テロ政策である。
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