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2011-05-22 00:00
(連載)大災害が問う国の生き方(2)
山下 英次
大阪市立大学名誉教授
ところで、大惨事は、人々の考え方に大きな影響を及ぼす。ヨーロッパでは、1755年のリスボン地震・津波による大惨事が、ヴォルテール(本名=フランソワ・マリー・アルーエ)やエマニュエル・カントなどの当時の思想家に大きな影響を与えたといわれる。地震と大津波、そしてその後の大火によって、最大で当時のリスボンの全人口の3割以上の9万人が死亡し、建物の85%が破壊されるという大惨事になったと言われるが、それでも地震の規模はM8.5程度と推計されており、今回の東北地方太平洋沖地震より規模は遥かに小さかったようである。
フランスの啓蒙思想家ヴォルテールは、地震後、神の差配によってこの世は最善に創られているとするドイツの哲学者ゴットフリート・ライプニッツの楽天主義的な予定調和論(現代に置き換えれば新古典派的な市場万能論ともいえる)を否定するようになる。実際、ヴォルテールの冒険風刺小説『キャンディード』(1759年)には、リスボン大地震の場面(第6章)も出てくる。『キャンディード』からちょうど30年後にフランス革命が発生した。『キャンディード』は、レナード・バーンスタインが喜歌劇にしたことでも知られるが(1956年NY初演)、主人公のキャンディードは世界中を遍歴し、各地であらゆる災厄・災難に遭遇するが、最後には、人間は労働(一か所にとどまって畑を耕すこと)によってのみ幸福に到達するという教訓を得るという物語である。
日本でも、今回の大惨事を契機に、国の形が変わっていくであろうし、また、より良い方向に変えていかなければならない。震災復興には、多くの論者が主張しているように、復興基金の設置と復興連帯税の徴収が必要とされよう。復興連帯税は、時限的なものとはなるが、これを機に、わが国は「高負担高福祉」の福祉国家を目指すべきではないだろうか。日本が目指すべき国の方向性は、「小さな政府」ではないはずである。市場メカニズムは重視しつつも、経済成長よりも国民生活を重視した社会(将来の大きな不安がないような社会)の実現を目指すべきである。福祉国家の実現には、国民の公共心の全般的な高まりが必要とされるが、今回の大災害を機に、同胞のそれに期待したいものである。(おわり)
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