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2011-05-17 00:00
じわりと巻狩の輪が狭まってきた:菅降ろし
杉浦 正章
政治評論家
狩り場を四方から取り巻き、獣を中に追い詰めて捕らえる巻狩の輪が、じわじわと狭められてきた。ポイントとなる不信任案に同調を求める「小沢署名」は、徐々に集まりつつある。首相・菅直人はひたすら通常国会閉幕へ逃げ切りの姿勢を見せているが、重要法案の処理が引っかかって、逃げ切れるかどうか分からない。タクシーの老運転手が「歌謡曲じゃないが、『お酒だ、お酒だよ』といいたくなる」とぼやいていた。確かにやけ酒でも飲みたくなる閉塞感が社会にあふれている。政治がリーダーシップを発揮して、明るい展望を示さないことが、全ての原因だ。菅政権の打ち出す大震災対策は、なんでこうマイナス思考に徹しているのかと思える。「浜岡やめる」に始まって、「2次補正早期提出やめる」、「国会延長やめる」、終いには金融機関に「東電への債権放棄を」と言いだした。銀行の金融支援には、金利の減免や返済計画の見直しなど様々な対応があり、まず民間で話し合うべきものだろう。またまた唐突かつ強権的に債権放棄の案が最初に出てきて、民主党政権は「社会全体主義にでもこの国を逆行させるつもりか」と言いたくなる。
さすがに国民の目も厳しく、新聞各社の世論調査では二つの傾向が共通して出た。ひとつは「浜岡原発停止支持」だ。各社とも6割から7割に達する。ところが、内閣の支持率にこの「浜岡」が作用していないのだ。支持率は各社とも前回と大差なく、ほぼ横ばい。大震災対策は「評価しない」と答えた人は読売が59%。朝日は「早くや辞めてほしい」という人が41%、「続けてほしい」は34%。分析すれば「浜岡だけは良いが、あとは皆ダメ」が国民の評価なのであろう。「浜岡」は、一過性のパフォーマンスと受け止められているのだ。本質を見抜かれている。こうした傾向は、ようやく野党を勢いづかせ、政権内にも小沢一郎とは別に微妙な反菅ムードが醸成され始めた。自民党は幹事長・石原伸晃が「菅総理大臣がわが国のかじ取りをしていくことが本当によいのか、率直に疑問だ。菅政権に対して、レッドカードをどこかでしっかりと示さなければならない」と不信任案上程を明確にさせた。
これまで沈黙を守ってきた政調会長・石破茂も「菅首相に内閣不信任決議案で『辞めろ』と言わなければいけない。衆院では野党を全部足しても可決できる数に届かないので、頭の痛いところだが、内閣総辞職に追い込むためあらゆる知恵を絞る」と決議案上程に踏み切った。「知恵」とは何かだが、小沢嫌いの石破のことだ、恐らく親しい国家戦略担当相・玄葉光一郎など民主党中間派などへの働きかけだろう。その菅側近であったはずの玄葉が、明らかに「菅離れ」の言動を取り始めた。菅が中部電力浜岡原発の全面停止要請に踏み切ったことを「事前に相談がなく遺憾だ」と批判し、「脱ポピュリズムで強い政権をつくることが求められている」とまで言い切ったのだ。耐えに耐えて菅に仕えてきた玄葉の菅離れは、近くで見れば見るほど、菅に首相としての素質がないことを物語るものでもあろう。玄葉の動向は、中間派議員らに影響を及ぼす可能性がある。一方、小沢サイドは黙々と不信任案に同調させるべく署名活動を展開させている。5月17日付け朝日新聞によると、側近が「100人近く集まった」と豪語しているという。
話半分とまではいかないだろう。筆者は、不信任案成立に必要な75人には限りなく近づいているように思う。小沢サイドが正確な数を隠しているのは、一挙に浮上させる際の常套手段だ。谷垣が「いま刀を研いでいる」と煮え切らないのは、小沢の集める数を注視しているからに他ならない。数が75人に達したとみるや、不信任案上程に公明党も含めて雪崩を打つだろう。これに対して菅は、幹事長・岡田克也が既にしているように、不信任同調者をけん制しつつ、6月22日の会期切れに逃げ込むしか、対抗手段がない。菅は、2次補正が遅れる理由について、16日、「被災地の自治体、県などが7月、8月に復興計画を出す」ことを理由に挙げているが、これはとんでもない詭弁だ。窮地にあるのは被災者であり、一刻も早く予算の裏付けのある復興計画を打ち出すべき時ではないか。自治体のせいにせず、なんで自ら率先して早期に復興計画を作らせ、自治体に対しても早期提出を求めないのか。自らの保身のためと馬脚が現れているではないか。この緊急時に、政治の放棄ともいえる「逃げ菅」路線だけでも、不信任案上程の最大の理由になり得る。
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