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2011-03-29 00:00
「人垣の防波堤」を築いて己を守るのに専念する菅
杉浦 正章
政治評論家
「言うべきを言う」「訴える」「覚悟を決める」「先見性」などを松下幸之助は「指導者の条件」としているが、首相・菅直人は全ての要件を満たしていない。どうして国民の前に頻繁に顔を出さないのか。ひたすらしていることは、「官邸の肥大化」である。自分の前に「人垣の防波堤」を築いてしまっている。必要なのは、自らの防御ではない。身を捨てた指導者のリーダーシップだ。この国難の時に、菅は自らの言葉で語らない。国民は知るべきことを知らされない。首相官邸は「船頭多ければ、船山に上る」の状況としか見えない。報道各社の幹部やOBの会合に出席したが、結論は「菅では駄目だなあ」に落ち着いた。大震災後、菅は何をしたかであるが、目立つことを挙げれば「少し勉強したい」と震災翌日に福島第一原発を視察。原子力安全委員会委員長・班目春樹から「水素爆発は起きない」と間抜けな報告を受けたものの、その後時をおかずに爆発が起きた。何しに行ったのか。いまさらピントのぼけた「勉強」をしているときか。東電が引き上げるという誤報を真に受けて、やっちゃ場の東電になんと3時間も居座った。次いで毎日のぶら下がりを取りやめ、国民の前から姿を消した。2回の記者会見は中身がなく、記事は、探さなければ分からないほど小さく報じられた。
白眉は自主避難。官房長官・枝野幸男をして第1原発から半径20~30キロ圏内の屋内退避対象地域について、「住民の生活支援および自主避難を積極的に促進する」と呼び掛けさせた。住民からは直ちに「ガソリンがない」「行き先がない」の悲鳴が上がった。自主避難するならするで、対応策を打ち出さなければならぬところであった。無為無策で「勝手に避難せよ」では、まるで「棄民政策」のようではないか。そして現在進行中が、異常なほどの官邸の組織拡大だ。首相補佐官を入れ替えたり、民間からブレーン役の内閣官房参与を震災後5人も増員。近く6人目も決まり、合計15人となる。戦場の最大の戒めは「敵前で陣形を変えるな」だが、菅の意識には抜き難い官僚不信がある。此の期におよんで、事実上失敗した「政治主導」なるものを“布陣”するつもりなのか。いまは度重なる震災で訓練されてきた官僚組織を、フル活用する時だ。事務次官会議を復活させ、官僚にやる気を出させるべき時だ。読売新聞によると、首相は最近知人から「震災復興も、原発対応も、良心的な官僚がいるはずで、彼らを使うべきだ」と助言されたが、「(かれらは)情報を隠している」と不満を漏らし、聞く耳を持たなかったという。いまや官僚組織は、菅とは無関係に、自立的に作動しているように見える。しかし、この大震災は100%の力の発揮では不十分で、150%の力の発揮が求められている。
危機の時の指導者は、国民に姿を見せて、国民を安心させなければならない。短い自らの言葉で国民を鼓舞する。「俺に任せておけ」の信頼感を与える。分かる範囲で見通しを述べる。そして決死で働く現場を褒めることだ。そうした人間関係の根底の部分での連帯が、未曾有の危機において何よりも必要とされる。しかし、残念ながら菅にはいずれも欠けている。顔を見せないということは、何をしているかが国民には分からないということだ。これが国民の“不安源”の1つだ。それとも菅は、失言と非難を恐れて、政権延命を狙っているのだろうか。自らの守りをしているときではない。
一方で、野党も、野党だ。ここは大連立へ参画すべきところを、子ども手当をめぐる攻防再開では泣ける。いまこそ持てるすべてのエネルギーを「救国的一致」に向けるべきである。自民党はまるで「陳情の引き継ぎ屋」と化しているではないか。加えて、自称「危機管理の権威」なる連中は何をしているのか。佐々淳行のホームページを見ると、冒頭まず「福島原発の爆発事故の可能性が高まっている」と、事態をチェルノブイリ型ととらえる誤判断をしている。その上で、「学童疎開」「国家勤労奉仕隊」「自警団」の編成など、ピントの狂った主張を展開している。これでは、それ自体がまるで一大“風評源”だ。政府に対して「なぜ、真っ先に東京消防庁に要請しなかったのか」と批判するなら、消防庁が動くのをテレビで見てから言出だすべきでない。その前に進言すべきだった。浅間山荘、安田講堂事件程度の経験ではとても及ばない事態が、いま起こっているのだ。いくら何でも「学童疎開」はないだろう。弁舌巧みな百日の説法もこれでは“帳消し”だ。その他テレビに登場するコメンテーターたちも同類だ。相変わらずいいかげんで、ヒステリックになっている者もいる。ここは「うろたえるな」と言いたい。
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