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2011-03-27 00:00
厚生官僚の無責任体質が原因の「低め設定の暫定基準値」
花岡 信昭
拓殖大学大学院教授
政府の危機管理はどうなっているのか。いたずらに風評被害をあおりたてているだけではないか。各地で放射線測定を徹底させるのは当たり前の対応だが、これまでのところ、健康にまったく害がない水準の数値を公表して大騒ぎさせている。米ホワイトハウスが同じような立場になったら、測定値は徹底して一括管理し、発表するかどうか、きわめて高度な政治判断によって決めるだろう。これは隠蔽するという次元の話とは違う。国民にいらざる不安を与え、風評被害が起きないように配慮するのも危機管理だ。それが、日本の場合、文部科学省やら自治体やらが測定した数値をそのまま発表し、混乱を生んでいる。枝野官房長官は毎日のように「健康被害はない」と繰り返しているが、害がないのなら、なぜ出荷停止だの摂食停止だのといった措置を取るのか。
だいたいが、食品衛生法の暫定基準値というのがおかしい。厚生労働省のやることは、おかしなことばかり多いから、いまさらあやしんでも始まらないのだが、なぜ、暫定基準値をこんなに低めに設定したのか。ついでだから、厚生労働省の「おかしな体質」について言及しておこう。ここは、もともと旧内務省の中核部隊であるはずだった。これからの日本を考えても、福祉、医療、雇用といった重要な国家的役割を負っているのだから、「三等官庁意識」を払拭してもらわなければならない。これもよけいなことだが、霞が関では、昔から「外務、大蔵、通産」が御三家と呼ばれ、それ以外は格下に見られていた。その意識を捨ててもらわないと困る。年金記録の紛失問題を取り上げるまでもなく、この役所のやることは無責任きわまりない。そういう体質が根付いている。だいたいが、国民年金をきちんと払い続けてきて、支給段階になったら、月に6万円ほどだが、他方保険料をまったく払わずに来て、生活保護を受けたら16万円もらえる、というのはおかしくないか。
そのおかしさを知りながらフタをしてきたのが、厚生労働省という役所である。かつての外局であった社会保険庁という、まさに「働かない小役人の集合体」の象徴のような役所は、さすがに消えたが、その体質は消えていない。さらについでに言えば、年金問題がいまだに片付かないのは、歴代の社会保険庁長官(2年交代ぐらいで厚生省から出向していた)の責任を問わなかったことに大きな要因がある。歴代長官の私財を没収して、生活保護で暮らしてもらうぐらいのことをやっていたら、もっとまじめに取り組んでいたはずだ。厚生労働省の体質をしつこく指摘しなくてはならないのは、今回、問題になっている暫定規制値を決めたのが、この役所だからだ。国際放射線防護委員会、国の原子力安全委員会の指標をもとに、ばたばたと決めてしまった。無責任体質がしみついている役所が決めたものだから、あとで責任を問われないように、かなり低めに設定してしまったのである。
いまになって、あわてて識者らを集めて基準値の見直しを始めたが、これだけの騒ぎを起こしたあと基準値を上げたら、国民の信頼はさらに落ちることになる。繰り返すが、基準値を超えてもまったく害がないというのは、いったい何のための基準値なのか。水道水の場合、ちょっと高めの数字が出て、乳児の摂食停止が指示され、翌日には低くなったから大丈夫という。こんなばかげた行政があるか。農産物、原乳などもそうである。1か所で高めの数字(それも健康被害は皆無というレベルの)が出たからといって、その県全体を出荷停止にするというのは、混乱を助長しているだけにすぎない。本当に国民の健康を考えているのなら「飲食禁止にしなければ、害が出る」というときだけ緊急告知すればいい。いまのような「オオカミ少年」的なことをくり返していたら、国民は政府も行政も信用しなくなる。たとえ「安全宣言」を出しても、そういうときのほうがあぶないと、さらに一段上の風評被害を招きかねないではないか。
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