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2011-03-02 00:00
大卒者倍増時代の就職難
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
大学卒業者の就職状況については、やれ「冬の時代だ」の、「早々と就活に精を出し過ぎて学業の妨げになる」のと、通り一遍の議論が賑やかだ。それかあらぬか、「何ヶ月か企業説明の開始時期を遅らせれば、多少事態は改善されるだろう」などと経済団体が世迷いごとを言い出す始末だ。「早期の就活開始で、学業がおろそかになる」と本気で考えている学校当局者、あるいは学生がどれくらいいるのか、一度尋ねてみたいものだ。
「学の蘊奥を極める」などという大学の機能はとうに消え失せ、実用資格がとりやすい、就職に有利だ、みたいな判断基準が大学選択に当たっての大きな要素になっているという。いわば「大方の大学は就職予備校と化している」といっても、過言ではない状態になっているのが実態だろう。別に、それが悪い訳ではない。大学教育を受けるというイメージそのものが、大きく変わっているだけの話だし、それは何も学生だけの話だけではない。大学教授といわれる人々だって、一昔前のガクモンというのではなく、一寸したケーススタディを数多く知っているとか、評論家めいた言動で世に受ける術を心得ていれば、それでよいという話だから、それはそれで雇用拡大に繋がるという結構な側面もある。
その間の事情は数字が明白に語るところで、1970年代半ばには50万人前後だった大学(含む短大)卒業者が、2000年代に入ると倍増して100万人を超えることになる。高卒のうち高等教育に進む比率も、それに応じて40%弱から60%近くにまで増えている。高校進学率それ自体が1955年には50%強だったものが、1970年代に入ると90%を一度も下回らないことを考えあわせると、大学卒という資格あるいはレッテルの持つ意味自体が、相対的に値下がりしたといってよいだろう。
ところが、事務系労働者を中心に、ホワイトカラーのイメージだけは根強く残存している。要するに、大学卒業者たるもの「上場企業の9時~5時のサラリーマン」になるのが世間相場で、そこから「脱落」することは社会的敗者になるんだ、といった全く根拠のない思い込みが世間一般に通用している。少し考えてみれば解るのだが、就業者数は30年で倍増したりしない。第三次産業化が進行して、雇用構造が変化したからといって、望み通りのホワイトカラーの職場だけが増える訳もない。4年間労働力化が遅れ、学費その他の諸経費がかさむ。それ自体は需要創出だから良いとしても、高学歴化による受益者が学生だとは限らない所がミソだ。知識労働者予備軍が増加するのは悪い話ではない。しかし、高等教育修了者が増加したからといって、知識労働者予備軍が増加している訳ではないという事実に、敢えて目を塞いでいるのは、よってたかって教育産業を振興しようとしているのだろうか。
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