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2011-02-16 00:00
(連載)中東地域における米国の影響力の衰退(2)
溝渕 正季
日本国際フォーラム研究員補
他方で、こうして中東地域において影響力を失っていく米国を尻目に、その影響力を徐々に拡大しているのが、シリアとイランという反米・反イスラエル「強硬派」国家である。両国は言うまでもなく、上記のレバノン・ヒズブッラーの最大のパトロンだ。さらに両国は、昨年末にようやく組閣に漕ぎ着けたイラクのヌーリー・マーリキー新内閣発足に際しても、多大なる影響力を行使しており、米軍大規模撤退以降のイラクの展望を考える際にも鍵となる存在である。加えて、両国間の同盟関係は今では「中東現代史において空前の強度」を誇っているとされ、この両国とレバノン・ヒズブッラーやパレスチナ・ハマースといった組織との密接なリンクは、米国やイスラエルはもとより、サウジアラビアやヨルダンといった他の親米「穏健派」アラブ諸国の懸念要因となっている。
また、とりわけシリアに関して言えば、アサド大統領父子率いるバアス党が約40年にわたり独裁的な支配を続け、秘密警察と軍を駆使しての強権的統治、高い失業率、貧富の格差、自由の欠如など、デモが起きたエジプトやチュニジアと同じ条件がそろっている。そして現に、フェイスブック上では今月4日を「シリア怒りの日」と名付け、チュニジアやエジプトに続く市民デモを起こそうとの呼びかけが出回り、国内外で1万2千人以上が支持を表明したとされる。だが、結果としてシリアでデモは一切起こらず、ネットでデモを呼びかけたとして75歳のイスラーム主義者の老人がシリア北部の都市アレッポで逮捕されただけで終わった。
バッシャール・アサド大統領自身は、1月31日付『ウォール・ストリート・ジャーナル』におけるロング・インタヴューの中で、「我々は他のアラブ諸国と比べても、一層困難な状況に置かれている」としつつも、「それでもシリアは安定している。なぜか。それは、ここでは政治が国民の信条と密接に結びついたかたちで行われているからだ」と、エジプト情勢を暗に皮肉ると共に、国内統治に関する絶対的な自信を伺わせた。シリアの中東域内における影響力拡大の背景には、このように国内的に「足元がしっかりしている」点が大きく作用しているといえよう。
このように、近年の中東地域における米国の影響力の衰退という傾向は、徐々に顕著なものとなりつつある。他方で、そうした米国を尻目に、シリアとイランはその域内的・国際的プレゼンスを次第に高めつつある。最近のエジプトやレバノンで起きた政変は、こうした傾向の明白な証左であると言えよう。とはいえ、先のインタヴューの中でシリアのアサド大統領がいみじくも述べているように、「これが中東だ。そこでは、新しい事態が毎週のように発生する。今週話していたことでさえ、来週には役に立たなくなる」。ともあれ、激動の中東情勢に関して、今後も注意深く観察していく必要があるだろう。(おわり)
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