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2011-01-31 00:00
解散の大義は「政権存続の是非」で十分だ
杉浦 正章
政治評論家
早くも袋小路に入った民主党政権の幹部から「争点のない解散はありえない」などという合唱が生じているが、解散・総選挙の歴史を知らない。解散には争点もへったくれもないのだ。すべての解散が、党利党略の力関係が作用して発生する。追い込まれるか、打って出るかの要素が、左右する。今回の解散も、あるとするなら、大義名分はただ一点「菅直人政権存続の是非」である。それが「民主主義の危機」などに直結することはあり得ない。
あまり説得力のない三百代言を弄しがちな官房副長官・藤井裕久が、テレビで「対立軸がはっきりすれば、選挙の意味があるが、対立軸を世の中が分かっていない」と宣うたが、本当に対立軸がないか。藤井は消費税などで対立軸がはっきりしてから解散するのがよいという論理構成だが、これは矛盾しており、自家撞着の限りだ。なぜなら、首相・菅直人は自民党に消費税で抱きつこうとしているではないか。抱きついて一緒に消費税を実現すれば、消費税が対立軸などになり得るのか。なり得えない。現在の政治状況から言えば、対立軸は紛れもなく「民主党政権の存続が是か非か」に絞られると言ってよい。「政権の存続」問題が解散のテーマとなれば、その政権がとってきた内政・外交上の政策のすべてが包含されるのである。マニュフェストで国民を釣り挙げ、財源がないと分かれば修正する。普天間移設、尖閣事件で演じた外交上の大失態。国民感情無視の一本釣り閣僚人事、金融危機に「疎い」首相の存在、これらすべてが政権存否を問うテーマとなるのであり、争点は有り余るほどあるのだ。
そもそも藤井代言は論理武装が足りない。過去の解散の例を見ても、政策が前面に出た「政策解散」は佐藤栄作の沖縄解散、大平正芳の一般消費税解散、海部俊樹の消費税解散など数例であり、ほとんどが「政局解散」だ。吉田茂は「なれ合い解散」「抜き打ち解散」「バカヤロー解散」と3回も「政局解散」をしている。岸信介も「話合い解散」だし、大平も「ハプニング解散」。中曽根康弘は「田中判決解散」と「死んだふり解散」。宮沢喜一の「嘘つき解散」、森喜朗の「神の国解散」にいたるまで、追い込まれるか、好機と見て打って出るか、の勝負が解散なのだ。今回解散があるとすれば「袋小路解散」とでも名付けるものだろうが、その追い込まれた袋小路は、全く展望が開けない。突破できないのだ。
国会対策委員長・安住淳は泣きつかんばかりに「修正を」と、誰彼と無く抱きつこうとするが、自民、公明両党は、全く応じようとする気配もない。案ずるのは公明党のぐらつきだが、政調会長・石井啓一はNHKの討論で「予算の骨格が変わる修正ができるとは思わない」と、微修正には応じない姿勢を一層強めた。子ども手当法案も「公明党の条件である恒久立法ではないし、恒久財源もない」と今回は賛成する構えにない。唯一政権側が突破口にと考えていた自民党提出の「財政健全化責任法案丸呑み構想」も、自民党が同法案を「一度撤回してバージョンアップしたものを出し直す」(国対委員長・逢沢一郎)と、とっかかりを消失させる作戦に出た。抱きつこうにも、抱きつけない様相となったのだ。それでも藤井代言は「吾に奇策なし、ただ誠あるのみ」「命がけでやる」と大時代な発言を繰り返すが、ここは死んでもラッパを手放さなかった木口小平を演じても無駄だろう。政治学者・御厨貴が今朝(1月31日)の読売新聞に「衆院解散の劇薬しかない」と書いているが、一読に値する。
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