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2011-01-26 00:00
与謝野“袋叩き”で菅の思惑は霧消
杉浦 正章
政治評論家
「髀肉(ひにく)の嘆から解放してもらった」と、経済財政相・与謝野馨は入閣の弁を語っている。髀肉の嘆とは、中国の三国時代に蜀の英雄劉備が、戦争がないためもも肉が太ったことを嘆いたものだ。この与謝野発言は、近来まれなる独善性と出世欲にさいなまれている哀れな老人の姿を露呈している。与謝野には「寧(むし)ろ燕雀(えんじゃく)とともに翔(かけ)るも、黄鵠(こうこく)に随って飛ばざれ」を、送りたい。ひたすら分不相応な出世ばかりを追い求めることの愚かさを知るべきだ。今日から始まる国会論戦で、与謝野が“袋叩き”にあおうとしている。どうなるか。都知事・石原慎太郎は大衆小説家の癖が抜けないのか、どうも人物評が下卑ている。「忠臣蔵で抜けてしまった侍」「ばかじゃないかね」「男伊達を売った」「君恥かきたもうことなかれ」は、いずれも石原発言だが、皮相的な感情論ばかりで、大衆受けはするが、本質を突いていない。「ばかじゃないかね」は自分に向けられることを知るべきだ。与謝野入閣のポイントは、それが消費税導入を進め、国家的財政危機を脱する契機になるかどうか、という一点に絞られる。筆者は与謝野人事で、逆に消費税導入は半年遅れるとみる。
与謝野の行動の根底に、日本的社会でもっとも忌み嫌われる「裏切りの構図」がある。農耕民族であり、近隣と協力無くして立ちゆかない村社会の遺伝子が、裏切りを嫌うのだ。与謝野は「政党は意見集約のためのグループに過ぎない」と述べているが、その政党の恩恵を“享受”し尽くしてきたのは誰か、を問いたい。政権与党に属してきたから、政権の中枢に立てたのではないか。与謝野は衆院選挙立候補に当たって、当時の自民党総裁・麻生太郎に誓約書を提出している。「離党などの反党行為は一切行わないことを、自由民主党および有権者に対して、誓約するものであります。前項の誓約に違反した場合は、政治家としての良心に基づき、議員を辞職いたします。本誓約書が公表されても異議ありません」というものだ。この誓約書に基づいて、選挙区で落選したものの、比例区での復活が可能となったのだ。自民党はこの公人としての約束を当然求めるだろう。幹事長・石原伸晃は、予算委員会での質問に与謝野人事を集中して取り上げ、追求する。自民党時代民主党追求の急先鋒であった与謝野の言行不一致と変節ぶりを浮き彫りにして、誓約書に基づいて議員辞職を要求する。
与謝野は議員辞職について「私を支持してくれた有権者のことを考えると、バッジを外すのは容易でない」と述べているが、有権者は「自民党の与謝野」を選んだのであって、歌謡曲「昨日勤王、明日は佐幕」の「サムライ日本」のような与謝野を選んだ訳ではあるまい。世論調査でも、5割が反発している。与謝野は案の定、筆者が指摘したように、自民党の財政健全化責任法案丸呑みの動きに出ている。もともと自分が作った法案だから、丸呑みも無理はないが、自民党がそれくらいで“軟化”すると思ったら、甘い。「信なくば立たず」だ。いったん信用を失ったら、物事は進まないのだ。自民党などの議員辞職要求、与謝野の拒否、首相・菅直人の擁護の図式が何を物語るかと言えば、国会審議の停滞であろう。これは、菅が愚かにも野党との橋渡し役を与謝野に期待したものとは、全く反する動きとなる。与謝野も四面楚歌の空気を察知して「職人として仕事し、実績をあげるだけ」と、“政治的調整”は無理と感じているようだ。野党との橋渡しはもちろんのこと、民主党内の調整などできるわけがない。「ヨソの大臣」のヤジが象徴する政権与党内の反発は、政治家としての存在すら認めない空気があるのだ。
従って、石原の議員辞職要求は、与謝野に対する参院での問責決議案上程に発展せざるを得ないだろう。衆院本会議の空気からすると、ひょっとしたら衆院での不信任決議すら通りかねないが、いくら何でもそれはないだろう。参院で問責が可決されただけでも、事態は重大である。場合によっては、任命権者の菅への首相問責決議すら可決される可能性がある。問責に連動して参院の審議がストップすれば、法案は何一つ通らない。この「与謝野政局」の様相では、菅が提案した「税と社会保障の一体改革」に関する与野党協議などは、「夢のまた夢」ということになる。従って、与謝野の起用は、財政再建にとってブレーキにしかならない事になる。昔竹下登が「東大出は時に理路整然と間違う」と漏らしていたが、“頭のいい人”は往々にして政局が読めない。与謝野が窮地を抜けるには、自ら先手を打って議員辞職するしかないだろう。それが政権全体のためにもなり得る。
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