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2011-01-24 00:00
米中の実利外交と日本の「失われた10年」
李 鋼哲
北陸大学教授
新年早々の1月19~21日と、胡錦濤中国国家主席が訪米し、オバマ米大統領と首脳会談を行ない、「米中共同声明」も発表された。日本のマスコミ報道では、米中関係の問題点に主な焦点が当てられ、如何にも偏っているかに見えて、苦笑いしか出てこない。米中は見事な実利外交に行っているが、日本は第三者的に評論ばかりでいいのか、筆者は憂いを隠せない。「日本の国益」を口癖のように唱えている日本の一部政治家やマスコミ、「有識者」などは、冷静に「本当の日本の国益は何か」を真剣に考えるべきであり、米中の「実利外交」から学ぶことが、優先だろう。中国に対して「一党独裁」、「覇権」、「人権」、「価値外交」という脅威論的な思考経路から脱却できず、日本の対中関係では「失われた10年」と言うのが適切だろう。
今度の米中首脳会談は、中国にとって画期的な外交成果と言えるだろう。数年前から米国は米中関係について「G2」という言い方をしている。中国はこの言い方を「受け入れない」といっているが、中国のGDPは昨年末に日本を超え、世界第2位(購買力平価では日本を2倍以上超え、米国に匹敵するとの試算もある)となった。そのことを踏まえ、今回の胡錦濤訪米で、実質的には世界の二つの超大国が手を結ぶ第一歩を踏み出したということだろう。
米国は一方では「価値観外交」で中国に文句を言いながらも、他方では「国益優先」の実利外交を巧みに、そして戦略的に進めている。それはブッシュー前政権でも、オバマ現政権でも変わらない。今度の胡氏の訪米で450億ドルのボーイングも含めた大型買付、対米投資32.4億ドルも合意された。これは、米国で2030万人の雇用創出に繋がるという。対中投資でも2010年末までの累積で、5.9万件(投資金額652億ドル)に達し、米国は中国経済成長の果実を着実に享受している。今後もしばらくは米中の実利外交は、両国に大きな利益を生み続けるに違いない。
これと対照的に、日本は1979年から2008年まで中国に対する最大のODA供与国で、中国経済発展を支えたという有利な立場にありながらも、それに見合う果実を十分に享受できたであろうか。答えはNOである。この10年間の日本の対中関係は、応分の実利を獲得できず、「失われた10年」と言っても過言ではないだろう。日中関係は「政冷経熱」という言葉がよく使われているが、筆者はかつて「政冷経涼」という用語で日中関係の現実を分析したことがある。つまり、政治関係も冷たければ、経済関係も涼しくなりつつあるということだ。反日デモやマスコミの過剰な嫌中報道で、日本企業の対中国戦略は大きな圧力を受けていることも見逃せない。その間、米国、EU、韓国などは中国市場に官民共同で乗り込み、貿易・投資・観光などで巨大な「実利」を得ている。中国という畑を耕すのに最も貢献した日本は、収穫時期に来ているはずなのに、他国が収穫しているのを傍観しているのではないか。小泉政権の「靖国外交」から安部政権の「価値観外交」そして現在の菅政権の「対米基軸外交」などを経て、日中間の距離は大きく引き裂かれている(もちろん中国の対日外交も失敗した)。現状の日中関係のままだと今後の10年間も、日本は中国市場での応分の利益を失いかねない。
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