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2011-01-18 00:00
長期戦略で臨む小沢と腰の定まらない菅・岡田
杉浦 正章
政治評論家
「離党だ」「除名だ」と小沢一郎に対して拳を振り上げたが、首相・菅直人は果たしてそれを実現できるのか。予算審議の最中に党分裂騒ぎとなるのは目に見えており、容易ではない。それどころか浮かび上がってきた小沢戦略は「長期戦」であり、逆に菅は自らの政権がいつ落下するか分からない超低空飛行を強いられている。政治倫理審査会への招致すら実現せず、決定打のないまま手詰まり状態に陥ろうとしているのだ。幹事長・岡田克也が何かの一つ覚えのように「政倫審への小沢招致議決」を繰り返すが、いい加減に、自分のやっていることがパフォーマンスでしかないと気づいた方がいい。とっくにそれを意識した自民、公明両党など野党は、議決には応じない構えだ。岡田だけが“いい子”になるのに、利用されたくないという感覚だ。民主党だけで法的拘束力のない議決をしても、前首相・鳩山由紀夫同様にほおかむりされるだけだ。
それでは、目前に迫った強制起訴を小沢はどうとらえているのだろうか。まず自らの資金管理団体「陸山会」の土地取引疑惑は検察の不起訴で決着積みという判断である。小沢は検察審の強制起訴を「捜査当局による起訴とは全く異質だ」と述べている。検察審制度を「民主国家として特異な制度」とも位置づけてもいる。要するに、小沢の解釈は「素人集団による人民起訴」くらいの認識しかないのだ。裁判には応ぜざるを得ないものの、「検察が不起訴にしたものを覆せるか」という自信が背景にある。小沢はこうした判断に理論武装を加えたとみえて、側近議員に「強制起訴と通常起訴の違い」と題する文書を配布させている。内容は、(1)強制起訴によっては検察が不起訴とした判断は無効にならず、推定無罪がより強く働く、(2)ごく少数の意思で多数の有権者に選ばれた政治家を被告人にするのは、議会制民主主義に反するーーーというものだ。菅が強制起訴で即「離党勧告」または「除名処分」に踏み切れるかどうかだが、支持率意識で踏み切っても、小沢は数を頼みに居座るだろう。無理強いすれば、民主党分裂、解散・総選挙、民主党大敗へと直結しかねない。
加えて、小沢は政局をにらんで、裁判の徹底した長期化を図ろうとしている。近く初公判となる秘書の裁判ですら、初公判までに1年かかった。小沢も強制起訴後の初公判を1年以上引き延ばす構えであり、判決もそれからさらに1年以上引き延ばそうとしている。一審だけで判決までに2年以上。無罪なら一審決着の公算が大きいが、有罪なら控訴してさらに引き延ばすだけだ。したがって、検察官役の指定弁護士が起訴前に事情聴取をしたいなどと言っても、応じるわけがないのである。一方、政治的にはこの裁判を逆手にとって、国会への招致を拒否し続ける構えだ。つまり「司法の場で決着すべきことを、国会が口を出すな」というわけだ。「三権分立に反する」という認識だ。したがって「政倫審程度は無視しても構わない」という考えだ。「まず予算成立に全力を挙げて、その後に出席」と述べているが、国会審議は激動が予想されており「予算成立後」などという約束は成り立たない、ことが分かっていての発言だ。加えて、小沢は、党内的には菅政権の消費税増税路線、マニフェスト見直し、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の3大政策で、隙あらば執行部を突き上げ続けるだろう。
背景には「菅は持たない」と側近に漏らしているように、3月、4月危機で政権が吹き飛べば、自らの国会招致どころではなくなるという読みがある。したがって、岡田が国会前招致で強引に議決しても、先延ばしの姿勢は変えまい。ましてや2年3年と続く裁判に、今時の政局が待っていられるかというと、とてもではないが、政権の一つや二つは変わっていると見なければなるまい。解散・総選挙も当然ある。マスコミは執拗に小沢疑惑を追い続けるから、民主党にとっては「総選挙圧勝の功労者」が「党勢じり貧の障害物」となって作用するだけだ。この小沢長期戦略に唯一の決定打となりうるのは、国会への証人喚問だ。出席は強制力を伴い、発言は偽証罪に問われる。野党は何とかそこに持ち込みたいのだろうが、菅も、岡田も、まだ腰が定まっていない。とりわけ岡田は、小沢を徹底的に追い込むのに、党内融和を考えてちゅうちょしているのだ。菅が新年の記者会見で離党や除名を示唆した点についても、岡田は「マスコミの解釈」としており、党分裂覚悟の本気でとことん踏み込むかは疑問だ。
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